カブトムシに関しては、これまでの研究と合わせて、原理の概要が明らかになった。カブト角原基の折り畳みは、大まかな形態を作る折り畳みと、その表面に刻まれた等間隔の皺からできているが、形を作るキーになるのは、等間隔の皺の方である。皺は、各領域により、異なる原基でできている。先端の領域では、皺を正確な2次元パターンで能動的に作ることで特徴的な4分岐を作る。中間部では、皺は、細胞シートが狭い空間内で1方向に拡大することで、受動的に作られる。先端領域での2次元パターン形成には、多くの遺伝子が関与しているが、現在、特に興味深い2つの遺伝子に関して、研究を進めている。ひとつはnotch1遺伝子であり、このRNAi変異は、皺のパターンは変えないが、間隔と深さが浅くなる。サイクリンEのRNAi変異は、皺の密度、パターンは変えないが、方向性が異常になり、皺がギザギザパターンになる。つまり、皺の性質のうち、間隔(深さ)と方向は別の原理で決められることになる。今後、その詳細を調べていくことで、さらに詳しい原理にと到達できると考える。ツノゼミに関しては、2020年2月に出版された論文で、既に、ツノゼミ角形態の概要に関しては報告している。2つの種で調べた結果、基本的には、カブトムシと同じ原理と思われるが、一度、原基の上皮が収縮し、その時に大まかな形態が形成される点が、ツノゼミ特異的であった。11月にコスタリカに採集に行き、これまでに得られていなかった種類の幼虫標本を採集し、調べたところ、この点は、ツノゼミ全般に共通であった。つまり、カブトムシの角形態は、主に、皺が展開されるときにできるが、ツノゼミの場合、原基が一度収縮するときに、「皺と関係なく」大まかな形態ができ、それが、皺の展開により、もう一度変形する、という2段階となっている。今後は、この収縮時の形態形成の原理の解明に注力する予定である。
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