計画研究
アフリカツメガエル神経形成における神経管形成の細胞・組織ダイナミクスを理解するために、神経管閉鎖時の神経上皮細胞シート内における細胞内カルシウム動態を蛍光プローブR-GECOを用いたライブイメージングで観察し、2つのモード(1細胞レベル、伝播を伴う多細胞レベル)の一過的細胞内カルシウム上昇が見られることを明らかにした。また、2つのモードの生理的な意義について数理モデルを用いて検討するとともに、3Dバーテックスモデルを用いたシミュレーションに加えて、胚操作実験によるモデルの検証などによって神経上皮細胞シートの折りたたみの機構について力学的考察を加えた。
2: おおむね順調に進展している
ツメガエル初期胚を人為的なカルシウム抑制実験で処理すると、神経管閉鎖時に細胞変形(頂端収縮)が阻害されること、ケージドATPで処理した胚をUV照射することで人為的にカルシウム濃度を上昇させると頂端収縮が起こることなどにより、これらのカルシウム上昇は細胞内アクチンのリモデリングを促し、頂端収縮に必要十分であることを示した。神経管形成における2つのモードの生理的意義の違いを明らかにするためにバーテックスモデルを用いた数理モデルを構築しシミュレーションを行った。その結果、多細胞レベルで時間的密度の高いカルシウム上昇は限られた時間に効果的に組織の収縮を促すが閉鎖過程全体を通しての効果は比較的小さい一方、1細胞レベルの散発的なカルシウム上昇は閉鎖過程全体を通して効率的に組織収縮に貢献することを明らかにした。この成果はDevelopment(Suzuki et al., 2017)に論文発表した。また、神経上皮細胞シートの折りたたみに関して力学的な理解を進めるために共同研究により、①細胞変形(頂端収縮)、②細胞伸長、③非神経外胚葉の深層細胞の正中線方向への移動という3つのパラメータを組み込んだ3Dバーテックスモデルを構築し、それぞれの神経管閉鎖への寄与をシミュレーションによって解析した。また、このシミュレーションの結果から予想された細胞伸長の寄与について、ツメガエル胚を用いて実験的に検証することができた。これらの結果をBiomech. Model Mechanobiol.に論文発表した(Inoue et al., 2016)。
3Dバーテックスモデルによる神経管の形態形成運動のモデル化に成功し、その妥当性が複数の生体データから確認されたことから、今後はモデルの発展と予測検証のための物理的なデータの収集を行い、組織の折りたたみと管形成を実現する力学制御の実体解明を進める。特に数理モデル解析から得られた予測によれば、細胞シートの折りたたみ形状と管の最終形態は頂端側と基底側の硬さのバランスにより決定されており、更に硬さバランスの変化に対する管の形態の安定性は細胞伸長により増強される。この作業仮説は生体組織のヤング率の体系的な計測により検証することが可能である。これまでに設置を終えた原子間力顕微鏡(AFM)を用いて頂端面の非破壊計測を体系的に行った上で、物理的に解離した神経板の頂端・基部側さらに裏打ちする中胚葉組織についてヤング率を計測し、時間空間的な硬さバランスのマッピングを行い予測の検証を行う。以上により硬さバランスの力学制御が数理モデルと実際の胚の両方で解析可能になった場合、更に硬さバランスに対する神経上皮細胞の変形(細胞伸長、頂端収縮)と表皮の移動の影響をMID1/2、Shroom3、Integrin beta 1の阻害実験により実際の胚で検証し、数理モデルの妥当性について改めて検証する。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 6件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 4件) 備考 (1件)
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