計画研究
アフリカツメガエル原腸形成時に見られる集団的細胞移動や神経形成における神経管形成の細胞・組織ダイナミクスの原理を理解するために、細胞の移動・突起形成、細胞内カルシウムのライブイメージングや細胞・組織の力学特性の測定などから器官形態形成のメカニクスの解明を目指した研究を行なった。細胞の集団的移動に関しては原腸形成時に先端に位置し、後方の中軸中胚葉細胞を牽引する先導端中胚葉(leading edge mesoderm, LIM)が生み出す力の測定を行なったほか、LEM細胞の先端に形成されるラメリポディアの形成にLEM細胞内でのカルシウム上昇が必要であることなどを明らかにした。また、神経管閉鎖時の神経上皮細胞シート内における細胞内カルシウム動態を蛍光プローブR-GECOを用いたライブイイメージングで観察し、2つのモード(1細胞レベル、伝播を伴う多細胞レベル)の一過的細胞内カルシウム上昇が見られることを明らかにした。また、これら2つのモードの生理的な意義について数理モデルを用いて検討するとともに、3Dバーテックスを用いたシミュレーションに加えて、胚操作実験によるモデルの検証によって神経上皮細胞シートの折りたたみの機構について力学的考察を加え、さらに原子間力顕微鏡(AFM)を用いて実際に、発生とともに神経管形成に関わる上皮細胞の粘弾性が変化することを見出した。最終年度には細胞の集団的移動や細胞・組織の変形における細胞応答メカニズムに関する予備実験を行なっていたところ、細胞内にタイトジャンクションの構成タンパク質であるZO-1の凝集体が力学刺激依存的に消失し、細胞集団における細胞-細胞間接着が強固になることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の期間内に、細胞・組織の変形や集団的細胞移動は胚内に無視できない大きな力を発生させること、同時に発生した力に細胞や組織が応答し、例えば細胞内カルシウム濃度を一過性に高まり、細胞突起の形成を促すなど、細胞・組織と物理的な力の間には相互に影響を及ぼしあうフィードバック機構(メカノケミカルフィードバック機構)が存在することが明らかになった。とくに、この知見から胚細胞・組織に力を遠心、圧縮、引張などによって直接負荷し、細胞の生化学的変化をリン酸化プロテオームによって解析したところ、負荷10分以内に多くのタンパク質がリン酸化を受けることが明らかになった。また、その多くは細胞-細胞間接着に関わるZO-1、および細胞-基質間接着に関わるインテグリンやそれらに結合する、あるいは機能を調節するタンパク質であった。リン酸化の全体像から、力学負荷によって胚の外胚葉細胞は上皮様の性質を獲得する、いわゆるMET(Mesenchymal-Epithelial Transition)が誘導されていることが明らかとなった。とくにZO-1タンパク質は胚に原腸形成による覆い被せ運動による力がかかっていない発生初期には細胞質内に液滴様構造として存在するが、原調形成運動によって外胚葉細胞が伸展するのに伴い、細胞質からZO-1の液滴は消失し、細胞膜のタイトジャンクション(密着結合)に強く集積するようになる。この力学依存的な変化には力によるFGF受容体の活性化およびその下流でERK2がリン酸化し、核移行することが必要であることが判明しており、現在、力によってどのようなメカニズムでZO-1の液滴形成・崩壊が制御されているかについて研究を進めている。
アフリカツメガエルで見出された一連の知見をもとに、メカノケミカルフィードバック機構の詳細なメカニズムや、動物種間での保存性について検討する。我々はZO-1タンパク質の液滴化は液-液相分離による凝集体形成によるものであり、この凝集体の形成・崩壊が、力学刺激によって制御されているということを作業仮説として研究を進めている。まず、相分離現象であることを証明するために、蛍光標識したZO-1(eGFP-ZO-1)を用いてツメガエル胚で観察された液滴構造やその力学刺激依存的崩壊・消失機構について、培養細胞を用いた実験系で再現し、力学刺激などさまざまな摂動実験およびバイオイメージングを用いた実験・観察結果の定量的解析を行う。現在、アフリカツメガエル腎管上皮由来の培養細胞A6およびヒト胎児腎細胞HEK293においてZO-1が液滴様構造を形成することを確認している。また、それらがLLPSによるものであることを証明するために、細胞膜の透過化処理を行い、同液滴が速やかに消失することを確認した。また、光褪色後蛍光回復法によって、液滴の総蛍光強度の回復について検討する。また、本メカニズムの種間保存性について検討するために内在レベルでZO-1を標識したマウス系統を用い、初期胚(E3.5およびE4.5胚)を用いてZO-1凝集体の観察を行う。マウス胚は栄養外胚葉細胞が胚内部に存在する胞胚腔の成長による内圧の上昇を受け、個々の細胞が大きく伸展する。したがって、E3.5で観察されるZO-1凝集体はE4.5で消失することが予想される。マウス胚の胞胚腔は微小ガラスニードルを挿入したり、胚の培養液の濃度を変えて浸透圧を変化させ内圧を下げることが可能である。こういった胚操作実験によって、力とZO-1凝集体形成の関係を明らかにし、種を超えて普遍的なメカノケミカルフィードバック機構を明らかにしたいと考えている。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Cell Syst.
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10.1371/journal.pbio.2004426
http://www.3d-logic.jp/