研究領域 | ハイブリッド量子科学 |
研究課題/領域番号 |
15H05868
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平川 一彦 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10183097)
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研究分担者 |
水落 憲和 京都大学, 化学研究所, 教授 (00323311)
岩本 敏 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (40359667)
早瀬 潤子 (伊師潤子) 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (50342746)
赤羽 浩一 国立研究開発法人情報通信研究機構, ネットワークシステム研究所ネットワーク基盤研究室, 主任研究員 (50359072)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | フォトニック結晶 / ダイヤモンド / 量子ドット / 光共振器 / テラヘルツ / 量子センサ / 量子インターフェース / 輻射場制御 |
研究実績の概要 |
フォトンに軸足を置きつつ、電子・スピン、フォノンとの相互作用の解明と制御の研究を進めており、本年度は以下のような成果が挙がった。 1)ナノギャップ電極によりテラヘルツ(THz)電磁波を単一分子に集光し、分子振動を介したトンネル現象のダイナミクスや分子の荷電状態依存性に関する情報を得ることができた。また、MEMSを用いて機械振動を介して高感度にTHz電磁波を検出する新しい方法の開拓を進めている。 2)輻射場の制御に関しては、カイラルフォトニック結晶における円偏光バンドギャップおよびバンド端での円偏光光子状態密度の変化、フォトニック結晶構造に応じた波長特性の変化を観測することに成功した。また本領域メンバーとの議論などを基に、二次元フォトニック結晶ナノ共振器を用いて量子ドットのスピン状態と光の軌道運動量を対応させるハイブリット量子技術の新たな可能性を提案した。 3)ダイヤモンドNV中心に関しては、電荷・スピン班および理論班、フォトン班との連携の下、磁気共鳴顕微鏡の改良や磁場検出感度の理論解析を進め、微小電流の高感度センシングに成功した。また、電界効果により電子スピンのコヒーレンス時間を10倍程度長くできることや、ダイヤモンドへの偏極スピン注入を示唆する逆スピンホール電圧の観測に成功するとともに、NV中心アンサンブルの光検出磁気共鳴スペクトルの理論的解析を行った。これらの成果は、電気的スピン初期化やセンサ感度向上に向けた重要な成果である。 4)量子ドットに関しては、本領域メンバーとの共同研究推進に向け共振器構造付き量子ドット積層構造の作製と評価、フォノニック結晶用量子ドット積層構造の作製を行った。さらに、InAs量子ドット集合体からのフォトンエコー生成効率向上を目的として、共振器付き量子ドットによる吸収増強とチャープパルスを用いたrephasing効率の改善を実験的に実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、電荷・スピン班、フォノニクス班と相互に連携を取り、領域会議での議論などを契機に新しい着想を得るとともに、海外との共同研究を推進している。主な進捗は以下の通りである。 1)予定していたナノギャップ電極によりテラヘルツ電界を集中させて、単一分子のメカニカルな振動とそれを介したトンネル伝導の信号を得ることができたことは大きな成果であった。また、MEMSの機械振動を用いた新しいテラヘルツ検出法については、まだ量子効果を利用するところには達していないが、ハイブリッドな方法で光検出を行うという新しい試みを開始できたことは今後の展開にとって望ましい。 2)カイラルフォトニック結晶による円偏光輻射場制御とその発光制御への応用について、その基礎を実証することができた。また、光子と量子ドットスピンを結ぶ新たな方式を提案ができた。 3)計画時に期待していた電界効果による電子スピンコヒーレンス時間の長時間化やダイヤモンドへの偏極スピン注入を示唆する信号の観測、NV中心アンサンブルの光検出磁気共鳴スペクトルの理論的解析など、ダイヤモンド中のNV中心スピンの電気的制御、量子状態制御に関する研究実績をあげることができた。さらに、ダイヤモンドNV中心を用いた微小電流センシングに成功したが、カーボンナノチューブ試料を検出するためには、さらに1桁電流センシング感度の向上が必要であることがわかった。 4)半導体量子ドットに関しては、高品質多重積層量子ドットの結晶成長ができており、順調に進んでいる。また、これまでに研究グループ内外からの共同研究依頼が5件あり、半導体ナノ構造の結晶を提供する共同研究体制が整いつつある。また、共振器付量子ドット試料の作製、チャープパルスによる量子制御技術の開発、通信波長帯単一光子検出技術の開発に成功し、当初の目標は達成された。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度以降以下のような方針で研究を推進していく。 1)金属内包フラーレン分子を用いて、さらに微細な単一原子のテラヘルツ信号の観測に挑戦する。また、分子振動を介したトンネル効果のダイナミクスや非線形効果に関する情報を得る。さらにMEMSを用いた新しいテラヘルツ検出に関しては、試料構造の最適化を行うとともに、低雑音化や量子効果の導入による高感度化について検討する。 2)カイラルフォトニック結晶を中心とするフォトニックナノ構造を用いた円偏光輻射場制御技術の一層の深化を図るとともに、単一量子ドットとの相互作用などの探求をとおして、ハイブリット量子技術の基盤研究を推進する。また、偏光以外の光の自由度も活用したカイラルフォトニクスとそのハイブリッド量子技術への展開の可能性についても広く検討する。 3)半導体n型ダイヤモンドを用いた電荷状態の安定化されたNV中心を用いた核スピン量子非破壊測定、原子レベルでの表面平坦化による欠陥低減と表面付近のNV中心のスピンコヒーレンス時間の長時間化の研究に注力し、研究を推進する。スピンと電磁波のハイブリッド状態(ドレスト状態)生成など、ハイブリッド系における新たな研究にも取り組む。さらに、ダイヤモンドNV中心を用いたナノデバイス中の電流センシングの実現ともに、理論班との連携を深め新規量子センシング技術開発を進める。 4)研究グループ内に提供している量子ドット試料や共振器構造について高品質化・最適化を行う。また、共振器付量子ドットサンプルとチャープパルスによる量子制御を組み合わせ、さらなるフォトンエコー生成効率の向上を目指すとともに、単一光子検出器を組み込んだフォトンエコー実験系を構築する。また、フォノニック結晶向けの量子ドット構造では、フォノン班との連携のもと、作製プロセスに適応した試料構造を検討する。
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