研究領域 | ハイブリッド量子科学 |
研究課題/領域番号 |
15H05870
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研究機関 | 国立情報学研究所 |
研究代表者 |
根本 香絵 国立情報学研究所, 情報学プリンシプル研究系, 教授 (80370104)
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研究分担者 |
江藤 幹雄 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (00221812)
松崎 雄一郎 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子電子物性研究部, 研究主任 (10618911)
森 伸也 大阪大学, 工学研究科, 教授 (70239614)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 量子情報 / 量子計測 / 量子コヒーレンス / 半導体ナノワイヤ / 輸送現象 / 協同現象 |
研究実績の概要 |
ハイブリッド量子科学の基礎創成に向けて、理論の枠組みの構築と、ハイブリッド量子現象と応用の理論提案に取り組んだ。まず、ユニバーサルな量子共同現象の理論的枠組みの確立と、異なるハイブリッド系で示す多様な現象を明らかにした。また、ハイブリッド量子系の概念を拡張し、現象やプロトコルなどのハイブリッド化により新しい物理現象や応用の可能性を示した。量子計測では、量子センサを有するサーバーと、量子センサは持たないが高感度計測を行いたい顧客の二者がいる状況を考えて、顧客が情報漏洩の心配なくサーバーの量子センサにより情報を得るプロトコルを提案した。さらに一方向性の量子状態転送に着目し、初期状態を用意した後に状態が初期サイトから目標サイトまで自動的に転送されるプロトコルを提案した。 電子・フォトンのハイブリッド量子系では、量子ドットにTHz光を照射したときの光電流を考察した。まず単一量子ドットにおける光電流の表式を理論的に導き、平川グループ(フォノン班)の実験結果を説明した。次に、複数の量子ドットの並列系における光電流を定式化し、量子ドット間のエンタングルメント生成による光電流の増大機構を提案した。他に、カーボンナノチューブにおけるトポロジカル物性の研究成果を論文にまとめ、また電子・フォノンのハイブリッド系としての性質として、フランク・コンドン効果の輸送特性への影響を調べた。 非平衡グリーン関数法に基づくフォノン輸送シミュレータを用いて、グラフェンナノリボンの熱コンダクタンスを計算した。線形分散を示す面内モードと2次の分散を示す面外モード・フォノンによる熱コンダクタンスのナノリボン長依存性を調べた。その結果、面内モードの熱コンダクタンスは、リボン長の平方根に反比例する異常拡散性を示すのに対して、面外モードでは、通常の拡散に近いリボン長依存性を示すことを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ハイブリッド量子科学の理論体系の確立とその応用を行うトップダウン的なアプローチと、実験グループとの協力により新しい物理現象の実現と実験結果解析及びフィードバックによるボトムアップ的なアプローチの両方において、インパクトの高い成果が出てきており、順調に研究が進展していると考える。また、実験との共同研究においても、電子スピンと核スピンのハイブリッド系や量子ドットとTHz光のハイブリッド系などで順調に研究が進んでおり、新しい研究成果が出てきている。さらに、ハイブリッド量子科学の基盤としてのシミュレータにおいても、計画通り進展している。また、ハイブリッド量子科学におけるハイブリッド化の概念の拡張により、当初予想されていなかった新しい発見が生まれており、研究課題全体を通して順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果をもとに研究をさらに発展させ、多様なハイブリッド量子系の理論的基礎を確立し、量子技術への応用方法を示すとともに、実験グループとの共同研究を進める。まず、ハイブリッド量子系の設計支援環境の構築を目指して本年度まで開発してきた各種シミュレータを用いて、次年度は、ファンデルワールスヘテロ構造デバイスの電子輸送シミュレーション、乱層グラフェンのモンテカルロ ・シミュレーション、熱輸送モンテカルロ・シミュレーション、赤外光検出器のデバイスシミュレーションを行い、実験班の測定結果の解析および設計支援を行う。 量子技術への応用では、特に量子多体系の相転移現象を用いた高感度測定についての研究を進める。相転移の近傍では、量子多体系は磁場に対して極めて敏感に反応することが知られており、この現象を磁場センサに用いる。少数量子ビットへの局所磁場の変化が、量子多体系全体の振る舞いが協調的な変化を引き起こすかどうかを理論的に検討する。 ハイブリッド量子系全体の振る舞いである協同現象は、ハイブリッド量子系の特徴的な量子統計的現象で、数理的な解析を行い、協同現象がもつ構造を明らかにする。多様な量子ハイブリッド系での新しい量子ダイナミクスを示し、励起子輸送などでの量子技術への応用方法を示す。さらに、量子ドットにTHz光を照射したときの光電流を定式化する。A02班と協力して、複数の量子ドットの並列系の示す光電流を研究し、ディッケ効果による光電流の増大機構、およびその検出方法を明らかにする。カーボンナノチューブ上に作製した2重量子ドットの電気伝導において、電子・フォノン相互作用の影響を調べる。Franck-Condon効果による電子とフォノン間のエンタングルメント生成を提案する。
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備考 |
NII Open House 2018「量子コンピュータと量子技術:多様化するハイブリッド量子科学」(ポスター発表), 2018年6月22日~23日(於:国立情報学研究所)
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