計画研究
1.胎仔細胞の膜電流振動と細胞内Ca2+振動の探索:皮質板細胞にGABAあるいはタウリンを投与して惹起される膜電流振動の周波数と振幅をフーリエ変換で解析した結果、タウリンはGABAより有意に大きな振幅を惹起した。また、GABAは皮質板に多くタウリンはサブプレートに多く、取り込み阻害剤の結果から、各々の部位でのCa2+振動の主要な内因性アゴニストは各々GABAとタウリンであると考えられた。GCaMPを子宮内電気穿孔法で発生細胞に導入しCa2+振動を記録できたので、移動過程の膜電流振動やCa2+振動の変化と両者の相関を解析する手法を確立できた。2.新規振動現象の探索にむけたネットワーク病態モデルの適切性の検討:脳波でdiffuse spike and waveを示すてんかん性脳症患者のKv2.1の2種のde novo変異をマウス神経細胞に導入したところ、どちらも連続発火が強く阻害され、細胞レベルでの連続発火抑制がむしろ回路レベルでの同期性増加につながると考えられた。taurine transporter-KOマウスでは発火特性、自発性シナプス後電流の頻度、WNK3のKOマウスでは連続性、WNKによるKCC2のリン酸化部位変異マウスでは胎生期の呼吸リズムなど、いずれも振動現象に変化がみられた。Angeleman症候群モデルでは、小脳でKCC2蛋白が増加し海馬では正常であり、小脳での発火パターン異常との関連が示唆された。3.γ振動発生機構におけるparvalbumin陽性GABA細胞の役割の解析:このモデルでは痙攣発作は見られなかったが、場所学習記憶保持が変化しており、γ振動変化の可能性が示唆された。さらに、γ振動発生に関わる可能性のあるGABAシナプス随伴糖鎖α-dystroglycanの糖転移酵素fukutin遺伝子のメチル化が脳全域で亢進していることを確認した。
2: おおむね順調に進展している
本年度の成果として、学会での公開や論文発表もできている。27年度計画としては、大部分を実行でき、ほぼ予定通りの目的を達成できた。加えて、細胞レベルでの連続発火抑制がむしろ回路レベルでの同期性増加につながるといった、予想に反した所見を得ることが出来た。今後、B班との連携研究を開始するが、これにより、神経細胞発振がネットワーク病態へモーダルシフトする機序に関するモデル化の良い案件が得られたと考えている。また、胎仔GAD67ヘテロ欠損母体ストレスモデルの網羅的DNAメチル化解析では、α-dystroglycanのo-マンノース型糖転移酵素fukutinの遺伝子のメチル化が脳全域で亢進していることを見出した。すなわち、ネットワーク病態としての行動やてんかん原性を評価する良いモデルとなる。また、α-dystroglycanはGABAシナプスに特異的に集積する細胞外糖鎖で、シナプス可塑性との関連が示されている。したがって、このモデルにおけるGABA作動性シナプス後電流や脳波等を解析することで、γ振動異常に関わる因子を探索することが出来る。今後さらにこれを発展させ、γ振動やその他の振動現象における細胞外糖鎖の役割といった新しい研究方向性につなげることが出来るので、新規発振現象の探索につながる。
1.γ振動発生機構に関わるparvalbumin (PV)陽性GABA細胞シナプスの機能解析: PV陽性GABA細胞が特異的に減少する胎仔GAD67ヘテロ欠損母体ストレスモデルでは、fukutinの遺伝子メチル化が脳全域で亢進しており、GABA細胞外糖鎖の異常が示唆された。今年度は、このモデルにおけるperineuronal netsなどGABA細胞・シナプスの細胞外糖鎖の状態やGABA作動性シナプス後電流、脳波等を解析する。γ振動異常に関わる因子を探索し、ネットワーク病態としての行動やてんかん原性を評価する。2.神経細胞間同期現象に関わるGABA細胞シナプスにおけるCl-バッファリングの検討: PV陽性GABA細胞選択的GFP発現マウスに、PiggyBac transposonシステムにより、アストロサイト特異的にR-CaMPやKCC2あるいはNKCC1アンチセンスを発現させ、GABAシナプスのアストロサイトの細胞内Ca2+振動と神経細胞発振、ネットワーク同期、γ振動発生におけるCl-バッファリングとの関係を検討する。3.神経細胞発振がネットワーク病態へモーダルシフトする機序のモデル化による検討:てんかん性脳症患者の原因遺伝子の機能解析で判明したチャネル機能異常や細胞内Ca2+濃度振動異常、樹状突起スパイン形成異常等が、神経細胞発振やネットワーク同期を誘起する機序について、数理モデル上での再構築を試みる(B02連係)。4.ネットワーク病態におけるGABA/Cl-ホメオダイナミクスの関与の検討:難治てんかん症例で発見されたKCC2の変異遺伝子を、グリシン受容体α1 subunitを発現するHEK細胞株に発現させ、各々の遺伝子のグリシン電流の逆転電位(Cl-の平衡電位に相当)を解析し、野生型KCC2とのCl-排出能(Cl-平衡電位)差異を明らかにする。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Scientific Reports
巻: 5 ページ: -
10.1038/srep15199
Brain Research
巻: 1601 ページ: 31-39
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Frontiers in Cellular Neuroscience
巻: 9 ページ: -
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http://www.hama-med.ac.jp/uni_education_igakubu_igaku_seiri1.html