計画研究
本研究の目的は、多極子が遍歴性を獲得して引き起こす多彩な伝導現象や量子相の解明を行うことである。これまで、アクチノイド化合物を中心に物質開発、多極子が絡んだ超伝導発現機構解明などを行って来た。本年度は、強磁性超伝導体やその関連物質についての研究が当初予定よりも大幅に進展した。もっとも顕著な成果は、強磁性臨界点近傍にある常磁性体UTe2の新奇超伝導についての成果である。この成果の論文はJPSJのEditors' Choiceに選ばれた。パウリリミットを大幅に超える上部臨界磁場Hc2を持ち、スピン三重項超伝導が確実となった。大きな比熱の飛びにもかかわらず約半分の残留状態密度を持っていること、超伝導対称性についての考察、エントロピーについての考察などから、さらに新奇な秩序状態が期待される。また、LDAによるバンド計算では近藤半導体的であるが、実際には半金属的であり、小さなキャリア数が期待される。重い準粒子を持つ小さなフェルミ面は、磁場や圧力など外部パラメータに敏感であり、今後の研究の発展が期待できる。強磁性超伝導体URhGeの磁場再突入型超伝導と量子三重臨界点近傍の揺らぎについてNMRによる研究も行われた。その他にも、トポロジカル超伝導やギャップ対称性などの理論的研究、UBe13の超伝導多重相と圧力下の研究、URhGeと類似の構造を持つカイラル磁性体UPtGeのメタ磁性とスピンゆらぎの研究、Sm、Yb化合物の物質開発と物性、Pr-1-2-20系の研究、URu2Si2の奇パリティ電気多極子秩序の研究などが進展した。
1: 当初の計画以上に進展している
強磁性超伝導体の研究を進めるうちに、当初予期していなかったUTe2の超伝導が発見され、この研究が大きくしかもかなりのスピードで進展している。強磁場・高圧・極低温での実験が国際共同研究に発展し、現在も様々な実験が行われている。また、多極子の物理にトポロジカル物性という視点が持ち込まれ、理論研究が進展している。ウラン化合物超伝導体はトポロジカル超伝導の主要な舞台となりうる系であり、理論と実験がお互いに良い影響を与えながら研究が進展している。このような視点にたったシンポジウムも日本物理学会で開催された。
当初の研究目的を維持しつつ、今後も5f電子系物質を中心に物質開発、多極子伝導が絡んだ新奇量子現象の研究を継続する。とくに現在大きく進展しているUTe2の研究を一層強力に推し進める。NMR、強磁場磁化、強磁場磁気抵抗、dHvA測定、ARPES、STM、FIB加工した試料によるホール効果測定、熱電能測定、中性子散乱などを予定している。これらはフランスCEA-Grenobleやその他の国際共同研究が必須であり、そのための枠組みを現在構築している。また、他の計画研究との横断的な研究もさらに推進する。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (70件) (うち国際共著 23件、 査読あり 67件) 学会発表 (61件) (うち国際学会 18件、 招待講演 22件) 備考 (1件)
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