研究領域 | J-Physics:多極子伝導系の物理 |
研究課題/領域番号 |
15H05885
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
網塚 浩 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40212576)
|
研究分担者 |
楠瀬 博明 明治大学, 理工学部, 准教授 (00292201)
藤 秀樹 神戸大学, 理学研究科, 教授 (60295467)
高阪 勇輔 広島大学, 理学研究科, 特任助教 (60406832)
中尾 裕則 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (70321536)
御領 潤 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (70365013)
|
研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
|
キーワード | 多極子伝導系 / 拡張多極子 / 強相関電子系 / 奇パリティ多極子 / トロイダルモーメント / 実験物理 / 理論物理 |
研究実績の概要 |
トロイダル秩序状態に発現する非対角電流磁気応答の理論予想について、現実のトロイダル秩序系UNi4Bを対象に電流誘起磁化の精密測定および異常ホール効果の検証を行い、前者については、異なる条件下で合成した試料に対する再現性の確認も含め、確かに電流で磁化が誘起される現象が起きていることを明らかにした。同時に、誘起磁化の電流方向に対する異方性が理論予想と単純には合致しないことがわかり、本系の結晶構造、磁気構造の精密な検討の必要性という新たな課題を提起した。また、ジグザグ構造を持ち強的トロイダル秩序を示すYbRhSbについて、電流を印可した状態でのNMR測定を行い、微視的な内場の発生を検証する実験を開始した。現時点では有意な内場の発生は確認できていないが、実験精度の向上の努力を続けている。もう一つの重要な理論予想である異常ホール効果についてもUNi4Bを対象に実験を行った。現時点の観測精度では、理論の予言する電流の2乗に比例する寄与の観測には至っていないが、こちらも実験精度の改善を鋭意進めている。このほか、拡張多極子秩序下で生じるソリトンのダイナミクスの磁場中共鳴X線回折による精密観測を実施した。また、RM2Si2(R=希土類・アクチノイド, M=Pt, Ir)、U3Pd20およびRBe13(R:希土類・アクチノイド)の空間反転対称性がグローバルもしくは局所的に破れた系の単結晶、ならびに新規カイラル磁性体RMSi(R=希土類, M=Ir, Rh)の不斉単結晶の合成を進めた。理論研究では、トロイダル秩序や磁気四極子秩序といった奇パリティ多極子秩序が引き起こす磁気輸送や非線形・非対角応答現象を記述するモデルの構築に着手し、トロイダル秩序特有の内因性ホール効果やその他の磁気光学現象の理論的解明、さらには奇パリティ多極子秩序のもとでの集団励起の予想に関する理論構築を進展させた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね計画通りに研究を進めることができている。トロイダル秩序系における電流誘起磁化現象について、その実験的確証が得られたが、定量評価については、さらに詳しい測定が必要な状況にある。また、異常ホール効果の検証および微視的な情報の取得には、実験精度の格段の向上を図るために実験手法の検討が必要なことが明らかになった。
|
今後の研究の推進方策 |
H27年度の研究を継続・発展させるとともに、新たに以下の研究にも着手する。 1)拡張多極子の動的応答:D01班で開発される新物質について奇パリティ多極子の挙動を調べる。電流や磁場だけではなく1軸応力や静水圧に対する応答も調べ、磁歪や圧電効果といった磁気・電気と弾性の間に生じる非対角応答の性質を明らかにしていく。また、カイラルらせん磁性体について、共鳴軟X線散乱とX線回折顕微鏡法を組み合わせたイメージング手法を開発し、実像でソリトン生成過程を調べる。また電流磁気非対角応答を特定する。 2) 新物質開発:A01、B01班と連携し、ジグザグ構造磁性体の置換系について局所的に誘起される奇パリティ多極子による量子伝導異常や揺らぎを調べる。muSRも活用する。 3) 拡張多極子系の理論構築:非対角応答について、より現実的なモデルへの拡張や、第一原理的なパラメタの評価を行う。電子だけでなく、マグノンやフォノンなども対象として、非従来型の非線形・非対角応答を開拓し、実験提案を行う。反対称スピン軌道相互作用を制御するための基礎理論を構築する。
|