計画研究
前年度に引き続き、トロイダル秩序状態に発現する非対角電流磁気応答の理論予想について、UNi4Bを対象に検証を進めた。同現象の発現については異なる試料による再現性も含めて確証を得たが、単純には理論と整合しない事実も見つかり、本系のトロイダル秩序構造の精密解析の必要性が明かとなった。そのため放射光X線回折による精密結晶構造解析並びに中性子回折実験による精密磁気構造解析の再評価に新たに着手し、実験を進めている。並行してB01と共同で純良単結晶を作製し、NMRを用いて静的・動的磁気特性を調べる研究を進め、常磁性状態の磁気異方性について新たな知見を得た。また、奇パリティ拡張多極子系や、遍歴性と局在性が絡んだ興味深い物性を示すウラン化合物系での共鳴磁気散乱研究を進め、ウラン化合物系では中性子散乱並みの磁気散乱が観測されることを見出した。さらに共鳴軟X線散乱とX線回折顕微鏡法を組み合わせたイメージング手法の開発も進めた。物質開発では、昨年度に引き続き空間反転対称性がグローバルもしくは局所的に破れた系の単結晶およびカイラル磁性体の不斉単結晶の合成を進めた。理論研究では、層状カルコゲナイド物質を念頭に置いた奇パリティ多極子系の光学応答選択則を導出、ハニカム構造Co化合物の特異な電気磁気応答の微視的模型に基づく理解の構築、並びにD01と共同でPr1-2-20系における四極子および磁気近藤効果の競合現象の起源を解明した。さらに擬2次元、および3次元系におけるp-波超伝導のうち、トポロジカルな状態に対してはそのトポロジー的構造を起源とするフィードバック機構が存在することを示した。また、MoS2のような単層チェッカーボード状三角格子系のs-波超伝導体で、対破壊効果の生じない横磁場印加によってトポロジカル超伝導状態を誘起できることを示した。
2: おおむね順調に進展している
おおむね計画通りに研究は進展している。トロイダル秩序系の典型物質の理解、拡張多極子系の実験と理論手法の開発が進められ、新たな実験的発見による問題提起も行われている。他の研究項目との共同研究や国際連携の進展による物質開発や実験と理論との協働が活発に行われ、効果を上げている。
1)UNi4Bの電流誘起磁化現象について、SQUIDおよびホールプローブを用いた精密磁化測定およびNMRを用いた局所磁場測定をさらに進める。並行して放射光X線回折による結晶構造解析および中性子回折実験による磁気構造解析の再評価を進め、本系のトロイダルモーメントの秩序構造を特定する。これらにより本系において観測される定常的な電流誘起磁化並びに新たに見出された磁気履歴現象の起源を明らかにする。2)CePd2Ga、RMn2X2 (R = Ce, La; X = Si, Ge) の単結晶試料に対し、電流印加状態でのNMR実験を実施し、局所内場の測定から電流誘起磁気効果を調べるとともに、関連物質を探索しNMR実験を進める。また、YbNi3A9のキラル磁性についても電流印加状態でのAl-NMRを行い、空間反転対称性がない系での電流磁気効果を議論する。3)今年度に引き続き、奇パリティ磁気多極子系やウラン化合物系での共鳴磁気散乱研究を進めるとともに、共鳴軟X線コヒーレント回折イメージング手法の開発を進める。4)A01、B01班と連携し、ジグザグ構造およびカイラル構造を有する奇パリティ拡張多極子系物質の開発を進めるとともに、これらの系に発現する量子伝導異常や揺らぎを調べる。5)拡張多極子の概念を用いた第一原理磁気構造データベース構築と非対角物性予測に関する理論を進展させる。6)異方的超伝導体のフィードバック機構に関して、多軌道構造など現実の系で現れ得るより豊富な電子の内部自由度を反映させた形へと一般化する。また、時間反転対称性を破る多極子秩序に関するカー効果や他極子秩序に対するフィードバック効果についての理論構築を進める。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (26件) (うち国際共著 7件、 査読あり 26件、 謝辞記載あり 12件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (117件) (うち国際学会 24件、 招待講演 9件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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