研究領域 | なぜ宇宙は加速するのか? - 徹底的究明と将来への挑戦 - |
研究課題/領域番号 |
15H05893
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高田 昌広 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 教授 (40374889)
|
研究分担者 |
田村 直之 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任准教授 (20450182)
岩田 生 国立天文台, ハワイ観測所, 准教授 (40399275)
高橋 龍一 弘前大学, 理工学研究科, 助教 (60413960)
|
研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
|
キーワード | 宇宙の加速膨張 / ダークエネルギー / ダークマター / ニュートリノ質量 |
研究実績の概要 |
本研究は広天域分光銀河サーベイを念頭に、その宇宙論統計量を用いた宇宙論解析手法の開発し、現在の宇宙の加速膨張の起源を解明することを目的としている。新学術領域に属する研究者と協力して、宇宙背景放射、銀河イメージングサーベイを包括的に組み合わせて、宇宙論パラメータを制限する手法を開発している。特筆すべき研究成果としては、まだプレプリントでの発表 (arXiv:1701.02151) の段階であるが、すばる超広視野カメラHyper Suprime-Cam (HSC) によるアンドロメダ銀河の高密度時間領域データ (dense-cadence data) を用い、原始ブラックホールによるマイクロレンズ現象を探査し、原始ブラックホールがダークマターの候補であるシナリオをほぼ棄却、少なくとも世界最高精度で制限することに成功している。この結果は、素粒子業界も含めて大きな反響があり、注目を集めている。来年度中には査読論文に出版する。HSC銀河サーベイプロジェクトについてはサーベイが順調に進んでおり、サイエンスにすぐに行えるフォーマットでの天体カタログ(星、銀河)、物理量測定量(位置、各フィルターでの光度、形状など)、また画像を2017年2月28日に全世界に公開することに成功した。これらのカタログを用い、サイエンスの成果が出つつあり、今後多くの査読論文の出版を計画している。 赤外カメラの開発については、プリンストン大学、ジョンズホプキンス大学の研究者らと協力して、Teledyne社から近赤外線検出器H4RGのサイエンスグレードを購入でき、検出器の性能評価を進めている。具体的には、検出器の制御システムおよび画像データ解析ソフトを開発・改良し、動作確認、各ピクセルの電荷許容量、バッドピクセルマップなど基本的な性能を確認している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すばる望遠鏡最大規模の大型プロジェクトであるHSCサーベイのデータを高精度で解析し、較正済み画像、天体カタログ(星、銀河)、物理量の測定量(位置、各フィルターでの光度、形状)を全世界に公開することができた(2017年2月28日)。5ヶ年計画の約1年分のデータにも拘わらず、総データ量は約80テラバイトと膨大で、既に約1億個の銀河のカタログを作成することに成功した。このデータ量は、10ヶ年の歳月を費やした米国のスローン・ディジタル・スカイ・サーベイのデータ量に匹敵する。さらに、すばるの大口径の威力により、このHSCカタログは宇宙が減速膨張から加速膨張に変遷した宇宙に存在する暗い銀河も含んでおり、138億年にも及ぶ宇宙の膨張史、また重力レンズの観測を通し、ダークマターの空間分布の集積過程の時間進化を明らかにすることができる。これらは大きな成果であるが、新学術領域に関与する研究者が中心的な役割を果たしている。HSCデータとスローン・デジタル・スカイ・サーベイの分光サーベイの銀河カタログを組み合わせ、宇宙論解析を行う準備ができている。さらに上述した研究に専任して従事する博士研究員に、米国エール大学でPhDを取得した有能な若手研究者を採用できた。 赤外線カメラの開発についても、非常に需要の高い高精度近赤外検出器H4RGをTeledyne社から購入でき、性能評価を行うことができた。プリンストン大学の研究者と連携して、この赤外線カメラの開発についても計画通りに進んでいる。 このように、HSCデータの解析、宇宙論の解析手法の開発、理論モデルのデータベースの構築、赤外線カメラの開発が順調に進んでおり、計画した研究は順調に進展していると言える。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は、銀河のイメージング・分光サーベイのデータを用い、宇宙の加速膨張の物理を究明することである。原始ブラックホールは、インフレーションなどの初期宇宙で生成される可能性があり、ダークマターの有力な候補の一つである。また、太陽質量の30倍の巨大ブラックホールの連星からの重力波が発見され、原始ブラックホールが連星ブラックホールの起源ではないかという可能性も活発に議論されている。このように原始ブラックホールシナリオを制限することは、インフレーションの物理、またダークマターの制限に繋がり、極めて重要である。上述したように、本研究グループはアンドロメダ銀河のHSCデータを用い、世界最高精度で原始ブラックホールの存在量を制限することに成功しており、この結果を来年度中には査読論文で発表する。 来年度中に、HSCデータから測定した重力レンズ効果などの宇宙論統計量と、上述した理論模型を比較し、ダークエネルギーなどの宇宙論パラメータを制限する。このとき、HSCチーム全体で、ブラインド解析(blind analysis) の手法を積極的に取り入れ、客観的かつ説得力ある結果を導出することに務める。本計画研究の研究者が中心となり、この宇宙論解析をリードし、用意周到かつ慎重に議論を進める。 赤外線カメラの開発についても、引き続きプリンストン大学、ジョンズホプキンス大学の研究者らと綿密に連携して、開発を進める。
|