研究領域 | なぜ宇宙は加速するのか? - 徹底的究明と将来への挑戦 - |
研究課題/領域番号 |
15H05894
|
研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
臼田 知史 国立天文台, TMT推進室, 教授 (10311177)
|
研究分担者 |
美濃島 薫 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (20358112)
千葉 剛 日本大学, 文理学部, 教授 (40324602)
三澤 透 信州大学, 学術研究院総合人間科学系, 准教授 (60513447)
稲場 肇 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究グループ長 (70356492)
|
研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
|
キーワード | 光学赤外線天文学 / 応用光学・量子光工学 / 光コム / 宇宙物理 |
研究実績の概要 |
光コムによる高分散分光器波長校正技術に関する開発研究(稲場、美濃島)においては、堅牢性に優れたモード同期ファイバレーザを基に発生させた可視光を、光共振器で切り出すための検討と実験を行った。発生した可視光コムの間隔周波数は100 MHzであり、これを高分散分光器に適用可能な20 GHz以上の間隔に切り出すためには、精密な共振器長制御と波長分散の管理が必要である。本年度はそのために必要な共振器ミラーの設計、調達を行うとともに、計算機シミュレーションおよび予備実験を行った。
赤方偏移の時間変化の観測による宇宙の加速膨張の直接検出の可能性を検討(千葉)においては、密度揺らぎの影響を評価した。揺らぎによる特異加速度の効果が最も大きいが、効果はz<1.5で5%程度、z>3で3%以下であることが分かった。現時点では密度パラメーターとハッブル定数の測定誤差(5%)による誤差が大きく、z>3でも30%になることが分かった。また、プランク衛星による温度揺らぎのデータとBAOのデータをもとに、重力定数の時間変化の新しい制限(0.2%以下)を与えた。
観測的実現性の検討(三澤)においては、銀河団による大離角レンズクェーサーを用いた多視線分光観測の可能性を検証し、その結果を学術論文として発表した。このユニークな観測手法はクェーサーそのものの観測のみならず、小スケールでの銀河間物質(IGM)の3次元構造の解明にも利用することができる。視線方向および横断方向の情報を同時に取得する必要のあるIGMトモグラフィーに大きく貢献する技術であるといえる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光コムの開発(稲葉)においては、高分散分光器の波長校正に適した広い間隔周波数を実現するための、光共振器による光コム切り出し技術において、必要な低分散ミラーの使用についての知見をいくつか得ることができた。また、関連するテーマである岡山天体物理観測所への光コム設置などの結果により、本テーマで開発すべき光コムシステムの仕様をほぼ決めることができた。 理論的な検討(千葉)においては、大規模構造の密度分布による吸収線系への特異速度および特異加速度の効果を見積もることができたが、数値シミュレーションが進行していないなど若干の遅れがある。 観測的検討(三澤)においては、TMT時代に取り組むべき3つのテーマのうち「銀河間物質(IGM)の3次元構造の解明」について、重力レンズクェーサーによる多視線分光観測の有効性の検証を進めており、データの活用法、注意点などをまとめた論文を発表済みである。サンプルを小離角レンズクェーサーやペアクェーサーに広げることにより、どの程度の距離スケールまで探査領域を広げられるかの検討を進めている。
|
今後の研究の推進方策 |
「光コムによる高分散分光器波長校正技術に関する開発研究(稲場、美濃島)においては、今後、高繰り返しファイバレーザ製作を行い、近赤外領域での光コム切り出し、光増幅を行う。高繰り返しファイバレーザ、光増幅においては、電通大での実験状況・結果も踏まえて開発を進める。 理論的検討(千葉)では、銀河形成の数値シミュレーションにより、実際の観測に即した系統誤差を詳細に評価する予定である。 TMT時代に取り組むべき3つのテーマのうち「宇宙の加速膨張の直接測定」および「物理定数の時間変化に対する制限」については、極めて高い波長測定精度が要求される。光周波数コムの開発を進める一方で、観測的検討(三澤)においては、僅かな波長のずれを検出する具体的な手法の開発も必要となる。そこで、波長測定精度を向上させるための手法を既存の高分散分光データを用いて検討する。
|