研究領域 | なぜ宇宙は加速するのか? - 徹底的究明と将来への挑戦 - |
研究課題/領域番号 |
15H05895
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大栗 博司 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 特任教授 (20185234)
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研究分担者 |
早田 次郎 神戸大学, 理学研究科, 教授 (00222076)
野村 泰紀 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 主任研究員 (40647616)
山本 一博 広島大学, 理学研究科, 准教授 (50284154)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 素粒子論 / 宇宙論 / 超弦理論 |
研究実績の概要 |
山本は、観測的宇宙論にもとづいた重力の検証として、大規模構造における重力赤方偏移の直接検出の可能性に着目した。高次摂動の理論模型の解析から、ボイド-銀河クロス相関関数の双極子成分が重力赤方偏移のシグナルを反映し検出に役立つことを示した。また、最近Aokiらによって提案されたダークエネルギー模型が超ホライズンスケールでダークエネルギー密度に大きな非一様性を持つ模型であることを示し、それが積分ザックス-ヴォルフェ効果を通して宇宙背景放射の温度揺らぎに与える影響を評価した。 野村は、宇宙論的時空を含む一般の時空に対応するホログラフィック理論を境界の量子情報量と時空の幾何との間の関係を用いて調べた。特に、ホログラフィック幕と呼ばれる時空の情報がエンコードされていると考えられる超曲面の詳細な性質を調べ、それをより一般の場合に適用出来るよう拡張した。またこれらの拡張の物理的意味についても考察し、境界理論における量子状態の粗視化が時空におけるホログラフィック幕に対するある種の繰り込み操作に対応することを明らかにした。 早田は、暗黒物質の有力候補であるストリング由来のアクシオンが、将来の宇宙重力波干渉計LISAやDECIGOによって観測可能な大きさの重力波を放射することを明らかにした。 大栗は、数学的な整合性を持つ量子重力理論から導かれる低エネルギー有効理論への制限を与える「スワンプランド条件」のひとつとして、有効理論のスカラー場のポテンシャルの満たす条件を提案した。この条件は、準安定なドジッター真空を許さないので「ドジッター条件」と呼ばれている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
山本の観測的宇宙論にもとづいた研究では、銀河分布データへの応用を目指して、赤方偏移空間の相関関数に着目した研究を進めてきた。これまでに修正重力理論に基づいたバイスペクトルに一般相対論からのズレが現れる可能性を指摘し、その検証のためハローアプローチに基づいた銀河バイスペクトルの研究を進めた。現在実際の銀河データからバイスペクトルを測定するプログラムを開発している。リンドラー状態を用いたミンコフスキー真空の記述に対応する形式で、ドジッター時空のバンチ-デイビス真空を2つのstatic chartの状態を記述する表式を与えた。ドジッター時空上の真空の非局所相関の理解に役立つかもしれない。 野村の見出した境界理論における量子状態の粗視化と時空におけるホログラフィック幕の繰り込み操作の対応関係は、ホログラフィック理論から時空がどのようにして生じるかについて極めて重要な情報を与える。本年度の研究では、一般の時空のもとでこの対応関係を一定程度理解することが出来た。また量子状態の粗視化は時空のエントロピーに関係しているが、この関係を事象の地平面を超える一般の曲面で定式化することに成功した。これは、量子重力のホログラフィックな定式化をする上で、有用な結果である。 早田は弦理論由来のアクシオンによるインフレーションモデルの構築や暗黒物質の研究を推進してきたが、最近インフレーション中のゲージ場の存在が重力子の観測に繋がる可能性を明らかにした。 大栗の提案したスワンプランドのドジッター条件は、宇宙論や素粒子の現象論的模型の構成にインパクトを与えている。
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今後の研究の推進方策 |
山本の大きなスケールで非一様性を持つダークエネルギー模型は、これまであまり調べられていないダークエネルギーの新しい性質と可能性を含む模型であるため、研究を進める。特に、この模型ではダークエネルギーの状態方程式がw=-1からズレる可能性があり、これを含めて宇宙項模型との違いを詳細に明らかにすることが重要である。宇宙項からのズレに関する一般的な性質を調べることで、新しいダークエネルギー模型の性質を明らかにする。この模型を作るスカラー場は非常に軽い質量を必要とし、そのような模型の妥当性を究極理論の観点から検討する。 近年、共形場の理論をエネルギー・運動量テンソルの二次の項で変形することにより、AdS/CFT対応の新しい描像が得られることが分かってきた。この変形で興味深いのは、バルクの反ド・ジッター空間が二次の項の大きさに応じた有限の領域に切断されることである。この現象は野村が調べてきた量子状態の粗視化とホログラフィック幕の繰り込みの対応に極めて類似している。来年度は、この両者の関係を明らかにし、時空の発現のより深い理解を得ることを目指す。 早田は、原始重力波の量子性の具体的な観測方法を提案し、重力子の存在の検証を目指す。 大栗は、ドジッター条件の基本原理からの導出を目指す。
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