計画研究
本年度は、リピドミクスの新たな方法論の創出と技術展開の一環として、酸化リン脂質の包括的解析システムの開発に取り組んだ。まず、培養細胞に各種の酸化脂肪酸を添加することで多種多様な酸化リン脂質を生成させ、生成した酸化リン脂質をQ-TOF型LC-MSで測定することで、約400種類の酸化リン脂質のMS/MSスペクトルライブラリーを構築した。得られたMS/MSスペクトルをもとに、tripleQ型LC-MSを用いた酸化リン脂質の高感度ターゲット解析システムを構築した。確立した分析系を生体由来サンプルに適用した結果、マクロファージが内因的に生成する8種類の酸化リン脂質分子種を高感度に検出することができた。また、脂肪酸代謝バランスの変化による疾患制御の分子メカニズム解析として、これまでにω3脂肪酸の構造に選択性を有し、抗炎症作用や組織保護作用と相関性を示す新規代謝経路を見出している。本年度はそこに関わる代謝酵素についてゲノムワイドの発現スクリーニングを行い、複数の候補分子を見出した。さらにこれら酵素分子のゲノム編集からノックアウトマウスを作成し、ω3脂肪酸の機能発現に関わる酵素および代謝経路の寄与について個体・細胞レベルでの検討を進めている。脂質イメージングについては、インペリアルカレッジオブロンドン医学部Zoltan Takats教授、ジョンズホプキンス大学医学部井上尊生教授と国際共同研究を推進した。特に、井上尊生教授とは、脂質局在の操作によって繊毛の切断が制御されることを見出した。大腸がんにおいて、がんの辺縁部で、イノシトール一リン酸の特にアラキドン酸を含むタイプのものが特徴的に集積していることを見出した。固形癌においてがんの三次元的な構築中でリポクオリティが特徴的な分布を示していることの初の発見である。
1: 当初の計画以上に進展している
本計画班の大きな研究目的の1つは、リポクオリティの違いを見極める新しいリピドミクス技術の開発にある。そのためには、従来のターゲット解析に加えて、探索範囲が飛躍的に拡大するノンターゲット解析が有機的かつ効率的に繋がることが不可欠である。本年度の研究から、400種類を超える幅広い酸化リン脂質分子種に対して、Q-TOF MSを用いたノンターゲット解析とtripleQ MSを用いたターゲット解析を効果的に組み合わせることにより、実測データに基づく包括的な分析パラメータの最適化を行った。また、ω3脂肪酸の構造に選択性を有し、抗炎症作用や組織保護作用と相関性を示す新規代謝経路については、候補となる酵素分子の同定に成功し、ノックアウトマウスを作成し個体・細胞レベルでの寄与について検証を進めている。いずれも当初の計画以上に進展し、今後の発展性が大いに期待される。脂質イメージングのサブミクロン観察については、SIMS技術の高度化を行った。クライオSIMS技術を導入したところ水クラスターノイズが出て見えないことが判明し、当初計画にあったポストイオン化による高感度化では回避できないと考えられたため、ウランを用いた固定化、洗浄によるノイズ軽減と高効率イオン化を行い、ついにシグナルを得ることが出来た。マイクロ流路デバイスを用いた実験、同位体を用いた実験を設計試行しデータ取得に成功した。リポリポクオリティの神経細胞内輸送が順行性にくらべ逆行性は少ないことが示唆されるデータが得られた。従来装置に加えて高分質量分解能装置と高速化装置を導入した。血管内プラークの操作の系では、マクロファージのサブタイプを特定した。光や薬剤投与による操作の条件検討を行い、可動することを確認した。
本年度はリピドミクスの新たな方法論の創出と技術展開の一環として、酸化リン脂質の包括的な測定系の構築を行った。今後は、より定量性を上げるために、酸化リン脂質標準物質の合成を行う。この標準物質を用いて抽出効率やイオン化効率の補正を行うことで定量性の向上を目指す。酸化リン脂質には、様々な生物活性や疾患・バイオロジーとの関連が指摘されている。今後、本研究で確立した酸化リン脂質分子種の高感度かつ包括的なメタボローム解析システムを様々な生体試料に適用することで、酸化リン脂質の代謝制御や生理的意義の解明につなげていきたい。また、ω3脂肪酸の固有の機能に関わると考えられる代謝経路を制御する酵素の実体を突き止めることにより、ω3脂肪酸の抗炎症作用や組織保護作用を規定する分子メカニズムを明らかにする。すなわち、脂肪酸クオリティの違いを機能的に反映する代謝系および活性代謝物の同定を目指す。脂質イメージングSIMSのサブミクロン観察については、最大のオルガネラである核と核以外の差、細胞内と細胞外の差は見えたが、より微小なオルガネラの観察には至らなかったため、この論文の固定条件である凍結乾燥では固定条件が超解像には不十分なのではないかと考えた。そこで今後はSIMSの測定のための脂質の固定条件の探索を行う。神経細胞のマイクロ流路デバイス内での培養については、脂質の同位体を用いて局所投与を行い、その脂質の動態を目指す。動脈硬化モデルマウスへのEPA、DHA投与実験は、動脈硬化部位におけるマクロファージのサブタイプを解析し、EPA、DHAの作用機序の解明をすすめる。脂質の操作系については光や薬剤投与による操作の条件検討を行い、実験系の確立を目指す。統合失調症の患者死後脳のリポクオリティの観察を行う。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (28件) (うち国際共著 6件、 査読あり 21件、 オープンアクセス 15件、 謝辞記載あり 7件) 学会発表 (37件) (うち国際学会 8件、 招待講演 27件) 図書 (4件) 備考 (5件)
J Cheminform
巻: 9 ページ: 19
10.1186/s13321-017-0205-3
Nature Commun
巻: 8 ページ: 14609
10.1038/ncomms14609
Cancer Discov
巻: 印刷中 ページ: -
10.1158/2159-8290.CD-16-0932
Mucosal Immunol
10.1038/mi.2017.36
脂質栄養学(日本脂質栄養学会)
巻: 26 ページ: 27-34
Biochim Biophys Acta
巻: S1570-9639 ページ: 30048-1
10.1016/j.bbapap.2017.03.006.
Sci Rep.
巻: 7 ページ: 45050
10.1038/srep45050.
Gene.
巻: S0378-1119 ページ: 30139-7
10.1016/j.gene.2017.03.004.
Mol Biol Cell.
巻: 28 ページ: 535-544
10.1091/mbc.E16-02-0089.
Cell
巻: 168 ページ: 264-279
10.1016/j.cell.2016.12.032.
Allergol Int
巻: 65 ページ: S2-S5
10.1016/j.alit.2016.05.010
Anal Chem
巻: 88 ページ: 7946-7958
10.1021/acs.analchem.6b00770
Front Bioeng Biotechnol
巻: 4 ページ: 63
10.3389/fbioe.2016.00063
Nat Biotechnol
巻: 34 ページ: 1099-1101
10.1038/nbt.3689
化学と生物
巻: 54 ページ: 151-153
血管医学(メディカルレビュー社)
巻: 17 ページ: 115-117
巻: 17 ページ: 137-143
生体の科学(医学書院)
巻: 67 ページ: 189-192
Ann Vasc Dis.
巻: 9 ページ: 277-284
10.3400/avd.oa.16-00122.
Anal Bioanal Chem.
巻: 409 ページ: 1475-1480
10.1007/s00216-016-0119-3.
巻: 6 ページ: 31268
10.1038/srep31268.
巻: 6 ページ: 29935
10.1038/srep29935.
巻: 6 ページ: 26427
10.1038/srep26427.
World J Gastrointest Pathophysiol.
巻: 7 ページ: 235-41
10.4291/wjgp.v7.i2.235.
J. Clin. Invest.
巻: 126 ページ: 1691-703
10.1172/JCI85300.
Neuroscience.
巻: 322 ページ: 66-77
10.1016/j.neuroscience.2016.02.013.
J Mass Spectrom. Soc. Jpn
巻: 64 ページ: 201-218
生体の科学
巻: 67 ページ: 198-202
https://sites.google.com/site/lipoqualityjpn/
http://www.ims.riken.jp/labo/53/index_j.html
http://www.pha.keio.ac.jp/research/pcm/index.html
http://www.nig.ac.jp/nig/ja/research/organization-top/laboratories/arita
https://www.hama-med.ac.jp/mt/setou/ja/