計画研究
PIP3ホスファターゼ欠損細胞では、特定の脂肪酸を持つPIP3分子種が特異的に増加している。この知見から、PIP3はその脂肪酸の違いによる分子種ごとに異なった代謝を受け、特定の標的タンパク質を優先的に活性化し、固有の生理機能を発揮する可能性が考えられる。本研究で、多様なPIP3分子種が産生される分子機構および生命現象における意義を解明し、リン脂質リポクオリティ研究の進展に貢献することを目的としている。①3種類の細胞内型PLA1のうち酵素活性を有するiPLA1α、iPLA1γに関してPIの代謝を検討し、iPLA1αがPIのsn-1位の脂肪酸を切り出す活性が強いことを見出した。また、10種類のリゾリン脂質アシルトランスフェラーゼ(LPLAT)のノックダウン時に、sn-2型のLysoPIが蓄積するかを検討した結果、複数のLPLATを同時抑制した時のみsn-2型のLysoPIが蓄積し、複数のLPLATがリダンダントな活性としてPIのsn-1位に脂肪酸を導入し、PIPsのアシル基構成に寄与している可能性が示唆された。②PIP3ホスファターゼSHIP1欠損マウスに認められる致死性の肺炎が、PIP3標的タンパク質の一つであるBruton’s tyrosine kinase(Btk)の変異導入マウスバックグラウンドで軽減されることを見出した。SHIP1欠損マクロファージではBtkの活性化が亢進しており、Btkの形質膜への局在化が、SHIP1の過剰発現により特異的に阻害されることを見出した。試験管内のホスファターゼアッセイで、SHIP1が特定のPIP3分子種を他のPIP3分子種より良い基質とすること、また、新たに構築したPIPsとタンパク質の結合実験系で、BtkがこのPIP3分子種に優先的に結合することを見出した。③リンパ腫の薬剤感受性と相関する可能性があるPIPsプロファイルが得られた。
2: おおむね順調に進展している
当初着目していた、PTEN欠損マウス癌組織で増加するPIP3分子種の合成品を用いて、3-phosphoinositide-dependent kinase-1(PDK1)を介したprotein kinase B(PKB)の活性化能を、試験管内での再構成実験で解析したが、仮説に反して、このPIP3分子種はPDK1-PKBを他の分子種より強く活性化することはなかった。一方で、炎症病態で中心的な役割を担うと推察される分子種を見出し、また、脂肪酸構成が異なる脂質とタンパク質の結合を定量的に評価する新しい実験系を確立することができた。
癌関連PIP3分子種については、PI(3,4)P2などの代謝産物の分子種構成を解析することで、病態における意義を探求する必要がでてきた。炎症関連PIP3分子種については、代謝酵素、標的タンパク質との連関をより明確にする必要がある。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 4件) 備考 (1件) 産業財産権 (2件)
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