研究領域 | 脂質クオリティが解き明かす生命現象 |
研究課題/領域番号 |
15H05903
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
反町 典子 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 分子炎症制御プロジェクト長 (30217468)
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研究分担者 |
田口 友彦 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 准教授 (10300881)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 炎症 / Toll様受容体 / スフィンゴミエリン / マクロファージ / 樹状細胞 |
研究実績の概要 |
分担研究者の田口らによって、細胞毒性の極めて低いsphingomyelin(SM)選択的プローブの開発されたことにより、細胞膜だけでなく細胞内小器官を含めたSMの動態をはじめて生細胞で追跡することが可能になった。これを受けて、炎症応答における脂質ドメインの動態と重要性、およびその制御機構について解析を進め、SM選択的プローブを用いて、マクロファージおよび樹状細胞においてSMドメインの可視化に成功した。SMは細胞表面でドメイン様分布を示すほか、TLR9アゴニストであるCpG oligonucleotide (CpG-ODN)刺激下においてはエンドソームにおいて(CpG-ODN)と共局在することが確認された。また、TLR9による炎症性サイトカイン産生においては、C2およびC6といった短鎖セラミドが抑制効果を示すことから、TLR9による炎症性サイトカイン産生においてセラミド鎖長が重要な意味を持つことを見いだした。これらの知見に立脚し、TLR9シグナルが伝達されるエンドソーム小胞空間におけるSM-セラミド変換の意義とメカニズムの解明に挑戦している。 また、好中球の細胞極性形成におけるGPCRシグナルに関して、好中球の極性形成の際、uropod形成におけるSHIP2の重要性とSHIP2を動員する膜ドメインの特性を明らかにし、論文を投稿した。さらに、マクロファージ、樹状細胞の炎症応答の過程で、脂質代謝がどのように変容するかを理解することを目的として、炎症刺激存在下における樹状細胞およびマクロファージにおいて、さらに鎖長が異なるセラミドの合成を担うceramide synthaseを発現させることによりセラミド鎖超を撹乱させたマクロファージにおいて、脂質のメタボローム解析を有田班との連携によって進めており、炎症応答の変容と相関する膜脂質の探索を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね研究は順調に進捗していると考えているが、自然免疫細胞において脂質代謝酵素発現を人為的に修飾する上で、進捗の遅れがある。自然免疫細胞は、細胞株であったとしても遺伝子導入等の操作において低効率の細胞サブセットであることから、複数の細胞株で発現様式の工夫など問題解決を図ってきた。 また、可視化のために用いていたNBD標識セラミドと同一鎖長の非標識セラミドの間で炎症応答に及ぼす影響が乖離しており、NBD付加による生理活性の消失あるいは細胞毒性が考えられる。そのためセラミドの膜局在と細胞機能の相関の解析に困難が生じている。
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今後の研究の推進方策 |
自然免疫細胞への遺伝子導入等の操作において低効率であること、セラミドの可視化に問題が生じていることなどの理由で、平成27-28年で予定されていたSM-セラミド代謝の撹乱による小胞内環境の変容と場に集積するタンパク分子の変化にかかる解析に遅延が生じており、29年度の計画に引き続き組み込むこととした。遅延はあるものの、セラミド代謝酵素の遺伝子導入株の樹立に成功しており、その質的変化の検証をリピドミクスによって行っている段階であり、29年度以降への計画変更として引き続き取り組んでいく予定である。 また当初予定していた田口らによるプローブ開発が予定通り順調に進んだことに加え、PUFA欠損細胞といった新たな材料、および特定のオルガネラでの細胞質側PS消去法といった革新的手法の開発がなされたことから、これらを取り入れた計画として一部修正を行った。 さらに、27-28年度に得られた知見をさらに発展させる計画として細胞質側脂質層に存在するSMに関する解析、PUFA含有リン脂質を直接認識して機能している分子の探索を追加した。
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