計画研究
プロスタグランジン(PG)は、GPCR受容体を介して多彩な疾患に関与するが、各受容体のリポクオリティ応答性は不明である。一方、ホスホリパーゼA2 (PLA2)は脂質代謝の初発酵素であるが、各PLA2欠損は内因性リポクオリティ異常と疾患様の表現型を示す。本研究では、研究代表者と研究分担者が得意とするPLA2とPG受容体が寄与する疾患を解析し、リポクオリティ-受容体-疾患連関の解明と疾患発症の分子機構の理解をめざす。本年度は以下の成果を得た。①PG受容体はG蛋白質のみならずβ-arrestin経路を活性化し、これが疾患の発症に寄与する。ω3由来PGに対して、PG受容体の分子種によってどちらの経路にバイアスを示すかが異なることを見出した。②構造活性相関検討を行い、PG受容体細胞内第二ループが単独でGsα活性化能をもつことを見出した。③PG受容体は、生殖生理に必須の役割を果たすが、ω3由来PGの影響は不明であった。そこで高ω3脂肪酸含有食が雌性生殖生理に与える影響を調べた。質量分析機によるエイコサノイド一斉定量解析系を確立し、実際にPGリポクオリティの変化を検証した。現在、各生殖プロセスを解析中である。④PNPLA1はヒト魚鱗癬の原因遺伝子として知られていたが、その分子基盤は不明であった。本酵素は分化の進んだ表皮に発現すること、本酵素欠損マウスが角質バリア破綻と表皮分化異常により出生直後に死亡すること、本酵素は角質バリアの形成に必須な脂質ω-O-アシルセラミドの生合成に必須の役割を果たすことを見出した。⑤PLA2G2Dはリンパ節の樹状細胞に発現しω3脂肪酸代謝物を動員する。本酵素の欠損/過剰発現マウスの解析から、本酵素がTh1, Th17応答を抑えることで接触性皮膚炎や乾癬を収束させる一方、抗腫瘍免疫を抑えて皮膚癌の形成を促進することを見出した。
2: おおむね順調に進展している
研究代表者、研究分担者ともに、本領域の目標である「リポクオリティ」を意識した脂質メディエーターと疾患に関する研究を展開し、着実に成果を挙げている。また本研究課題内はもちろん、領域内の他の班員とともに有機的連携を実践し、相互の研究体制を築きつつあることからも、概ね順調に進展していると判断される。
今年度、研究代表者の所属機関・熊本大学は熊本地震の被害を受け、とくに共通機器の損壊が激しく、4月から9月頃まで網羅的遺伝子発現解析やセルソート解析を実働できない時期があった。しかしながら、主たる研究室や動物実験施設、本課題で導入した質量分析機は難を逃れたことや、領域内連携のおかげで、最小限の遅れに食い止めることが出来た。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (12件) (うち国際共著 3件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (25件) (うち国際学会 5件、 招待講演 6件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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