計画研究
【矢冨グループ】・動脈硬化とリゾリン脂質クオリティの研究では、急性冠症候群患者血漿および、LDL、HDLの酸化、糖化にて観察された変化が、動脈硬化症の発症母地である糖尿病患者由来のHDLでも同様の変動を示すことを発見した。・癌とリゾリン脂質クオリティの研究では、肝癌では、スフィンゴ脂質からグリセロ脂質への変換経路が亢進している可能性を示していたが、グリセロ脂質のうちリゾホスファチジルイノシトールがこの経路における癌の進展に関わる可能性を、手術検体を用いたin situ hybridization、蛋白発現解析。および基礎実験より発見した。・神経とリゾリン脂質クオリティの研究では、疼痛誘発因子であるリゾホスファチジン酸が、神経障害性疼痛のヒト髄液で上昇していることを発見したが、また、ラットモデルでもこの変動が確認され、さらには、リゾホスファチジン産生酵素阻害剤にて疼痛が軽減できることが分かった。【本田グループ】・アトピー性皮膚炎モデルマウスを用いて、オメガ6脂肪酸由来脂質代謝物の一種が、アトピー性皮膚炎発症の抑制因子として作用していることを見出した。その作用点として、ケラチノサイトからのTSLP産生抑制が関与している可能性が考えられた。また、高脂肪食負荷が皮膚恒常性にどのような影響を与えるかについて、高脂肪食負荷マウスモデルを用いて、高脂肪食摂取後の皮膚での組織学的変化の解析と、網羅的な遺伝子発現変化の解析を行った。組織学的には、高脂肪食摂取後皮膚では毛包漏斗部の角化の亢進が認められた。またそれと一致して、角化関連遺伝子発現が高脂肪食摂取後皮膚で上昇していた。これらの所見は臨床的な毛包炎と合致し、高脂肪食による毛包炎誘導メカニズムの一つと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本研究においては、リポクオリティを切り口としたヒト疾患の理解に臨床医(臨床検査医・内科医として矢冨、皮膚科医として本田)の視点・立場から取り組むとしていたが、循環器・動脈硬化性疾患、悪性腫瘍(肝細胞癌など)、神経障害性疼痛、皮膚免疫・アレルギー疾患に関して、順調に成果をあげることができ、計画通り進行していると考えられる。特に、急性冠動脈疾患におけるリゾホスファチジン酸、リゾホスファチジルエタノール、癌におけるリゾホスファチジルイノシトール、リゾホスファチジルセリン、乾癬発症におけるトロンボキサン受容体の関与の重要性を新規に明らかにすることができ、これらの現象の疾患における意義を基礎実験によって解明できつつある。また、研究倫理委員会の承認の元、各種疾患の血液、組織(癌組織、皮膚など)を中心に、着実に、検体収集を行い、領域全体の臨床検体センターとしての基盤も整え、リポクオリティ領域の他グループに提供し、共同研究を推進している。
【矢冨グループ】臨床研究は、平成30年度の研究を継続して行う。また、癌の病態生理へのリポクオリティの関与について検討するため、癌の進展に関係があるとされる物質の発現を検討し、リゾリン脂質や関連蛋白の発現との関係について検討を行う。特に、食道癌で肝癌、大腸癌で見られた事象が観察されるか、組織切片を用いて病理学的にも確認できるか、検討する。基礎研究では、平成30年度の研究を継続するとともに、腹膜癌播種モデルや糖尿病モデルマウス、脊髄損傷モデルラットを用い、臨床研究の成果についてより深く研究を行う。また、臨床検体センターとして、佐々木班(佐々木、青木)、杉本班(村上)、公募班(木原)との共同研究も推進を続ける。【本田グループ】高脂肪食が乾癬病態に及ぼす作用メカニズム、オメガ3脂肪酸由来脂質(レゾルビンE1)の乾癬制御メカニズムを動物モデルにてさらに検討し、作用点を明確にする。またトロンボキサンの乾癬バイオマーカーとしての可能性を、臨床検体を用いて解析する。また、腸内細菌由来脂質代謝物が乾癬病態に及ぼす作用について、動物モデルを用いて検討する。また食事内容、運動情報データとともに、腸内細菌叢・脂質代謝物解析を進め、疾患制御候補の腸内細菌由来脂質代謝物を少なくとも一つ選定し、標的細胞・作用メカニズムを解析する。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
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