計画研究
今回の研究は、種々のがん細胞株やモデル動物ならびに臨床サンプルのオミクス解析によって得られた多階層分子ネットワークデータに基づいて、個々で異なるがん細胞文脈のシステム的統合理解を図りその情報に基づきがん診断と治療の最適化方法を確立することを目的に研究を行った。その結果、上皮間葉転換(EMT)、がん転移・浸潤性、オートファジー変調など種々の悪性特性が検証できるモデルがん細胞株を確立した。また、細胞文脈関連miRNAの探索を実施した。加えて独自保有の23がん種446がん細胞株の細胞文脈の構成別分類化を進めた。さらに、東京医科歯科大学疾患バイオリソースセンターを拠点に詳細な臨床情報を付随させたバイオバンク、特に高齢者がんサンプルに関して体系的な収集を進めた。さらに、モデル細胞株や収集された症例検体に関してオミクス解析、血清・細胞アミノ酸分析などを行い、得られたオミクス解析データや機能的スクリーニングデータ、ならびにネットワーク解析などで得られる膨大な各種網羅的解析データをもとに、がんの細胞文脈システム変化プロファイルを解析した。その結果、がん転移性にタンパク質翻訳に関与するハイプシン経路の活性化が見出された。さらに、機能的スクリーニング法により胃がん細胞においてmiR-544aのEMT誘導性を明らかにした。また、酸化ストレス応答転写因子NRF2活性化がんにおいてmiR-634が強い細胞増殖抑制、細胞死誘導することを明らかにした。Exosome回収の技術的な確立を進め、高転移性の口腔がん細胞株から放出されるExosomeに内包される浸潤制御性miRNAを明らかにしている。
2: おおむね順調に進展している
がん特異的な細胞文脈の構成分子候補データに基づいた、がん細胞株アッセイ系を構築し、既存化合物ライブラリーや上市薬ライブラリースクリーニングを実施するシステムが確立できている。これを用いることで、細胞文脈特異的に抗腫瘍効果を認める既承認薬の候補の複数が浮上している。さらに、in vitro/in vivo検証モデル系を用いた機能的解析を行い、未知のがん関連候補遺伝子群(セット)や関連シグナル・パスウェイなどについて機能解析が進んでいる。加えて、臨床症例を用いた多角的解析を実施してがん細胞文脈関連事象を理解し、がん細胞文脈のシステム的統合的理解を進めて文脈層別化という新しい切り口から、高齢者を含めたがん診断と治療の最適化方法の確立の基盤が構築できており、以上をもって当該研究は順調に進捗していると判断する。
がんにおけるオートファジー機能の変調は細胞増殖と細胞死誘導の両面性が知られている。さらに、蛋白非コードの機能性マイクロRNA は数百もの標的遺伝子を持つことから、同一分子でありながら「がん遺伝子」あるいは「がん抑制遺伝子」としての振る舞いが知られている。同一でありながら相反する機能は、がん細胞の種類(cell type)や細胞文脈(cellular context)に依存して発揮される。細胞文脈はDNA、RNA、タンパク質、代謝物、器官、骨格などの細胞の部品や装置から形成された多階層にわたる分子ネットワークから成り立っている。今後は、これらの細胞文脈構成ネットワークとそれを駆動する関連ハブ分子および摂動分子を抽出し、遺伝統計学的解析なども加えながら患者集団での意義づけやがん細胞文脈の違いによる新たながん層別化分類とそれに基づくがん個別化治療の概念の可能性を追究する。以上から、がん細胞文脈のシステム的統合的理解を進めて文脈層別化という新たな切り口から、がん診断と治療の最適化方法の確立を目指す。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (13件) (うち国際共著 1件、 査読あり 12件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 13件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件) 備考 (2件)
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