研究領域 | がんシステムの新次元俯瞰と攻略 |
研究課題/領域番号 |
15H05910
|
研究機関 | 愛知県がんセンター(研究所) |
研究代表者 |
高橋 隆 愛知県がんセンター(研究所), 総長, 総長 (50231395)
|
研究分担者 |
梶野 泰祐 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (50723673)
細野 祥之 愛知県がんセンター(研究所), がん標的治療TR分野, ユニット長 (60820363)
中杤 昌弘 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院講師 (10559983)
|
研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
|
キーワード | 癌 / システム生物学 / ノンコーディングRNA |
研究実績の概要 |
がん遺伝子MYCの転写活性制御に関わる MYMLR lncRNAをシステム生物学的解析を通じて同定し、MYMLR結合蛋白として見出したPCBP2がMYMLRとMYCのエンハンサーとの結合に必要なことを示してきた。さらにMYMLR或いはPCBP2のノックダウンによって、MYCのプロモーターとエンハンサーを近接させるゲノムのループ構造が破綻し、MYCの発現が著しく抑制されることを明らかとし、がん遺伝子MYCの発現制御において、蛋白を規定しないMYMLR lncRNAが重要な役割を担っていることを、その分子機序ととともに解明することに成功した。 また、肺癌においてしばし遺伝子増幅を伴って高発現するmiR17-92クラスター、特にそのクラスターの中でも中心的な働きをするmiR-20aによって発現抑制されるlncRNAの探索を行って、miR-20aによって顕著に抑制される機能未知の新規lncRNAを見出した。この新規lncRNAはmiR-20aの標的配列を有しており、また、当該lncRNAのプルダウンによってmiR-20aが共沈したことから、miR-20aが直接結合してその発現を抑制しているものと考えられた。種々の肺癌細胞株において当該lncRNAをノックダウンしたところ、p53蛋白の顕著な誘導を伴い、p53野生型細胞株において顕著な細胞死を誘導することを見出し、TP53-inhibiting lncRNA(TILR)と名付けた。興味深いことに、p53欠損細胞株やp53変異細胞株では細胞死は強く誘導されなかった。p53野生型細胞株におけるTILRノックダウンによる細胞死の誘導は、p53 を同時にノックダウンすることにより回復した。TILR lncRNAが、p53の発現抑制を通じてがん細胞の生存に寄与している可能性が示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表的ながん遺伝子であるMYCに関わるlncRNAの探索・同定は、ドライとウェットの統合的な解析を通じて順調に進行している。MYC遺伝子の転写活性を制御するlncRNAとして同定したMYMLRは、MYC遺伝子の近傍で逆方向に転写されるdivergent lncRNAの一種であり、PCBP2蛋白と結合してゲノムを屈曲させて、エンハンサー領域をMYC遺伝子のプロモーター領域に近接させることによって、MYCの転写活性化を維持することを明らかにした。また、我々が肺がんにおける増幅と過剰発現を最初に報告したmiR-17-92クラスターに含まれるmiR-20aの標的lncRNAを網羅的に探索し、p53の発現を抑制する新規lncRNA、TILRを同定した。miR-20aによって直接発現抑制されるTILRは、p53野生型肺癌細胞において細胞生存を制御するlncRNAであり、TILRの発現抑制はp53の発現上昇と活性化、さらには細胞死を引き起こすことを明らかにした。今後、TILRによるp53の発現抑制制御機構の詳細な分子機序を解明する必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
システム生物学的アプローチと分子細胞生物学的な解析を統合的に駆使して、これまでにがん遺伝子MYCの転写活性化に関わるMYMLR lncRNAを同定し、その分子機序の詳細を明らかとすることに成功した。また、miR-20aによって制御される新規lncRNA、TILRによるp53の発現制御機構の解明を目指して、TILR結合タンパク質の同定や網羅的な遺伝子発現解析を進めている。TILRの持つ分子機能に多角的に迫り、肺がんの生存におけるTILRの重要性を明らかにしたいと考えている。
|