研究領域 | 多様な質感認識の科学的解明と革新的質感技術の創出 |
研究課題/領域番号 |
15H05916
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
小松 英彦 生理学研究所, システム脳科学研究領域, 教授 (00153669)
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研究分担者 |
本吉 勇 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (60447034)
下川 丈明 株式会社国際電気通信基礎技術研究所, 脳情報通信総合研究所, 主任研究員 (30645312)
郷田 直一 生理学研究所, システム脳科学研究領域, 助教 (30373195)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 質感 / 光沢知覚 / 美醜判断 / マカクザル / 脳科学 / 素材識別 / 表面反射特性 |
研究実績の概要 |
小松はマカクザルの下側頭皮質において見出した光沢選択性ニューロンの活動が光沢知覚と因果関係を持つかどうかを検証する実験を進めた。このために光沢識別課題を訓練したサルの下側頭皮質からニューロン活動を記録し、微小電気刺激を加え行動への影響の解析を始めた。また下川と共同で光沢選択性ニューロンのダイナミクスについてより詳しく調べた。光沢の2つのパラメータ、コントラストと鮮明さ、に対する神経応答の立ち上がりには10ms程度の差が見られるが、情報量の時間解析を行った結果、その差は一過性の応答を示す細胞の有無に因ることを明らかにした。また横井らと共同してプロジェクションマッピングで円柱の棒にさまざまな素材の画像を投影した時に、サルが実物の素材に対して示す反応の差が部分的に再現できることを見出した。本吉は,質感の美醜判断に関わる視覚情報処理メカニズムを検討している。今年度は,生態学的に重要な刺激である「食べ物」に分析の対象を広げ,多くの食べ物は気持ち悪さを示唆する画像統計量をもつにも関わらず,食べ物であると認識されると心地よいと判断されることを明らかにした。これは材質カテゴリ認知が画像統計量と同じく質感の情動価の判断に重要な役割を果たすことを意味する。また、表面画像に対する誘発電位を計測・分析する系を構築し,脳波の様々な成分と質感の心地よさ・気持ち悪さとの対応関係を分析した。また深層ニューラルネットワーク(DNN)を用いた解析も始めた。郷田は素材識別に関する解析を行い、DNNの異なる層が素材識別に関わる異なる情報に対応することを見出した。下川はコンピュータグラフィックスを用いて様々な形状、光沢パラメータ、照明下にて、多数の物体画像を作成し光沢パラメータを深層学習させると共に、光沢と形状との相互作用を調べるため、画像に真の3次元形状情報を追加して深層学習させたときの結果との比較も行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光沢知覚を特徴づける重要なパラメータの間で、光沢選択性ニューロンの活動に見られる時間的な差の原因が情報論的解析から明らかになり、光沢選択性ニューロンのダイナミクスについて理解が深まった。また感性的質感認知については生態学的に重要な食べ物についての分析が進み、材質カテゴリ認知が質感の情動価の判断に影響することを示すなど、感性的質感認知メカニズムの理解が進んだ。更に深層学習を用いて質感認知に関する情報処理を調べる計算環境の整備が進み、深層ニューラルネットワークの異なる層が素材識別に関わる異なる情報に対応することを見出すなどすでに興味深い結果が得られ始めている。これらのことから順調に進んでいると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
質感認知については、光沢知覚の神経基盤に関する理解を深めるために、光沢選択性としてとらえられるニューロン活動と光沢知覚の因果関係の解析を進める。光沢知覚以外の光学的特性や触覚的特性についても心理物理的計測や神経活動記録により、多元的な質感表現の解明を進めていく。また、特定の視覚課題において利用される画像情報の時間的発展を分析する新たな心理物理学実験手法と脳波分析を組み合わせ,質感の認知と情動反応の時間ダイナミクスを統一的視野から検討する。また、深層ニューラルネットワークを用いた計算環境の整備が進んだので、これを用いて大規模データを利用した情報処理の解明を進める。具体的な方策の一つとしてDNN層に含まれるどのような特徴が特に重要な役割を果たしているのか、また、これまでに脳活動計測実験で計測した様々な視覚野の活動とはどのように対応するのかについて解析を進め、素材質感に関する各視覚野における情報表現とその変換についての全体像を明らかにすることを目指す。
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