計画研究
霊長類の視覚系において、一次視覚野V1からMT野までの記録を行った.V1からMT野への入力の性質を調べるため様々な視覚刺激と解析法を適用し、以下の結果を得た。MT野細胞がうける抑制は空間・時間周波数領域において興奮性入力よりも広範に分布しているため、ピークではそれほど強くはないが、周波数領域全体を積分した総合的強度は必ずしも弱くはなく、ほぼ同程度の強度を持つ。したがって、興奮性と抑制性の入力はMT野の細胞においてはバランスしている。この成果は、現在投稿中の論文として査読を経て、改稿版を提出した。ネコの初期視覚野において、最初の単純型細胞および複雑型細胞が次の段の細胞に統合される過程の性質をプーリングの観点から研究した。空間におけるプーリングのみならず、空間周波数と方位の領域におけるプーリングを解析した結果、空間周波数領域においてもプーリングを行っている細胞が存在することを初めて示した。また、方位領域においてもプーリングを行う細胞の存在を示すことができた。さらに、理論的および実験的な解析により、プーリングが両眼視差選択性にもたらす効果を調べた。空間におけるプーリングは両眼性の空間周波数と方位のマッチング精度を飛躍的に向上させ、両眼立体視のための情報処理に重要な役割を担っていることを初めて発見した。逆に、空間周波数領域におけるプーリングは空間的な視差選択性をよりシャープにし、両眼偽対応を除去する効果があることを示した。これらの成果は2編の論文として出版および印刷中である。
2: おおむね順調に進展している
霊長類の実験システムの開発と解析ソフトウエアの開発はほぼ終了し、実際にデータを取得するところまで進行することができた。また、3件の論文が出版され(印刷中含む)、1件の論文が投稿中である。
今後は、大澤(研究代表者)と佐々木(研究分担者)がV1, V2, MT野等、主として背側経路における電気生理学実験を担当する。また、田村(研究分担者)がV1, V2, V4等の腹側経路を担当する。連携した研究の円滑化のために、特任研究員と技術補佐員の各1名を一定期間雇用する。それぞれのグループでは、大学院生が2~3名参加する。岡田(連携)と協力し、スパースなギャップのあるデータでも高信頼度の計測を可能にする視覚刺激と解析手法を適用し、自然画像を元にした刺激、画像統計量を体系的に操作した刺激、DRGW刺激、ランダムドット刺激を使ったマイニング的なアプローチを実現するための、共通の視覚刺激システムとデータ解析システムを本研究のための合同の研究室に設置する。主にこの作業は2実験室からのソフトウエア的の統合のための開発作業であるため、既存のコンピュータシステムを利用する。また、霊長類の視覚経路の内、腹側経路を田村班が、背側経路を大澤・佐々木班が担当し、単一神経細胞からの記録実験を昨年度も行ってきたが、これを継続する。これにより、必要な細胞数やデータの量を得る。この時点で、実験制御コンピューターと、集積されたデータを処理するための解析コンピューターをそれぞれの研究室で使用する。腹側・背側経路相互の情報伝達の様態を調べるために、MTとV4の同時記録実験の準備を行う。この研究では、動きの情報に基づく三次元形状知覚 (structure-from-motion)の神経基盤となる情報伝達に関する示唆が得られる可能性がある。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (2件)
Phil. Trans. R. Soc. B
巻: 371 ページ: in press
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http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/jpn/events/achievement/sasaki-ohzawa-20151117/
http://ohzawa-lab.bpe.es.osaka-u.ac.jp/ohzawa-lab/publications/