研究領域 | 多様な質感認識の科学的解明と革新的質感技術の創出 |
研究課題/領域番号 |
15H05922
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
坂本 真樹 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 教授 (80302826)
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研究分担者 |
中内 茂樹 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00252320)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 感性情報学 / 認知情報学 / 視覚心理物理 / 触覚心理物理 |
研究実績の概要 |
本計画研究は,質感認知モデルや実社会の素材による質感工学のためのデータセットとして,物理特徴,心理物理実験による知覚表現データ,言語による主観評価データを蓄積し,観察者プロファイルを対応付けて質感データベースを構築することを目的としている.坂本は蓄積した共通質感刺激を用いたオノマトペ想起実験によって得られる主観的質感表現を定量的に解析し,中内は心理物理実験によって知覚表現を抽出し,人が素材から知覚する質感をオノマトペや音韻でカテゴリ化する質感認知メカニズムについて解明する.さらに,物理特徴からオノマトペ,オノマトペから物理特徴へと変換可能な質感操作システムを構築することを目標とする.これらの研究目的を達成するために,平成28年度は質感データベース初案を構築した.
1.H27年度に収集・リスト化を行った素材サンプル(和室素材,紙,布,木,合成樹脂)を対象として,物理量,知覚特性,言語表現の特徴を,視覚,触覚,聴覚実験により調べた.得られた実験データはデータベースに随時実装し,音韻カテゴリにより素材検索が可能となる質感DBの初案を構築した. 2.質感データベースの構築に向けて,質感画像(FMD)に対する質感評定データとオノマトペの関係を分析した.その結果,特定の質感特徴と特定の調音特徴の間に顕著な相関関係が見られた.質感素材識別のなかでも鏡とガラスの識別について,動的な視覚特徴を解析したところ、運動透明視に類似した運動成分がこれら2種類の材質識別の手掛かりとなっている可能性が示唆された.(坂本・中内) 3.木,紙,布を取り扱う専門家へのヒアリングを行い,各50種類程度の素材の収集と質感を分類するオノマトペの調査を行った.調査したオノマトペを用いて,木と紙のオノマトペマップを作成し,質感オノマトペプロジェクト冊子としてまとめた.(坂本・渡邊)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度は実験実施とデータベース構築を推進する特任研究員が決定し,実験遂行やデータベースを構築することができた. 進捗1として,実験用和室で用いられている素材サンプル(木・畳),オノマトペマッププロジェクトで収集した素材サンプル(紙・布),共同研究先企業のゴム製品サンプルを対象として,素材そのものが持っている物理量(表面形状・熱伝導率・硬度・水分量など)と,人が素材から感じる知覚特性(SD法),知覚特性を統合的に表現できる言語(オノマトペ)特徴を視覚,触覚,聴覚実験により調べた.得られた実験データはデータベースに随時実装し,音韻カテゴリにより素材検索が可能となる質感DBの初案を構築した.進捗2としては,FMDの画像データ群(部分抽出した約2000枚の画像)に対して,質感表現に対応するオノマトペを取得し,DCNNを用いて,画像と音韻が結びついた学習ができ,人工知能による質感表現の可能性が示された.進捗3としては,同FMDの画像データ群に対する質感評定実験を行い,評定結果とオノマトペの関係を分析した.特定の質感特徴と特定の調音特徴の間に顕著な相関関係が見られた.質感素材識別,質感特徴と調音特徴の関係の調査に加え,絵画に対する選好と色彩特徴量の関係について国際共同研究を開始し,西洋人と日本人の間の共通性と違いについて実験的に調査を進めている.進捗4としては,木,紙,布を取り扱う専門家へのヒアリングを行い,各50種類程度の素材の収集と質感を分類するオノマトペの調査を行った.調査したオノマトペを用いて,木と紙のオノマトペマップを作成し,質感オノマトペプロジェクト冊子としてまとめた.進捗5としては,実験用和室と人工空間を活用して環境音知覚に対するコンテキスト依存性を調べる実験を進めている.H28年度3月に実験データを取得し,分析を行っている.
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今後の研究の推進方策 |
H29年度は物理量-知覚特性-言語表現を結ぶ質感データベース構築を充実していく.そのため,素材に対する物理・知覚・言語表現実験を増やし,その関係性を検証していく.また,国際的な展開を図るために,海外連携を進める. 新たな素材と物理量に着目し,知覚特性(視覚・聴覚・触覚)と言語表現(オノマトペ)の関係性を解明していくとともに,素材の画像化を進め,ウェブデータベースとしての機能を充実させる.画像,オノマトペ、質感評定値がタグ付けされたデータを充実させるために,より多くの観察者を対象としたWeb実験を実施する.特に音象徴性と質感特徴との関係について,国際共同研究をベースとした研究へと発展させ,言語間の共通点と相違点を実験で検証していく.検証されたデータを基に国際的に通用するデータベースを目指す.
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