研究領域 | 多様な質感認識の科学的解明と革新的質感技術の創出 |
研究課題/領域番号 |
15H05923
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
梶本 裕之 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (80361541)
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研究分担者 |
岡本 正吾 名古屋大学, 工学研究科, 講師 (10579064)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 触覚 / 質感 / バーチャルリアリティ / ヒューマンインタフェース |
研究実績の概要 |
本研究は,触感の構成要素の解明およびタッチパネルにおける触感表現という二本柱で研究している.前者で触感の本質を皮膚変形の言葉で記述し,その知見を援用しながら喫緊の課題であるタッチパネルへの触覚提示に取り組んでいる. 触感の構成要素の解明に関して,今年度は指先皮膚が凹凸テクスチャ面上を移動した際の皮膚水平変位を高速に捉えるシステムを高精度化し,1.0mm間隔,0.02mmの精度でのトラッキングを達成した.さらに多数の凹凸テクスチャに対する皮膚変位の観察から,1mm以下の細かなテクスチャでは皮膚は全体として同時に駆動され,振動する部位の面積および周波数に特徴をもつこと,および粗いテクスチャでは皮膚は部位ごとに時間差をもって駆動されることが観察された.それぞれ従来知られてきたFine RoughnessおよびMacro Roughnessという主観的な触感を説明するものと期待される.さらに皮膚の運動として従来は顧みられなかった,粘着物質に触れた際の引き上げ力分布に着目し,圧力分布が物質の性状によって変化することを観察した. タッチパネルへの応用が可能な触覚提示技術として,指腹に機械的振動刺激と摩擦刺激の両方を呈示可能な装置を開発した.今年度は試験を兼ねて,表面に凹凸を有する仮想テクスチャを,この装置を用いて提示した.その結果,どちらかの刺激しか提示できない従来の触覚呈示技術と比べて,2種類の触覚刺激を提示可能な我々の装置は,より本物らしいテクスチャを提示可能であることが心理実験によって示された.より詳細には,表面に1-3ミリメートルの規則的な空間波長を有するテクスチャに関して,開発中の装置の優位性が確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
触感の構成要素の解明に関して,当初計画では本年度までに皮膚変形の高分解能記録を行うとともに,触覚ディスプレイを用いて記録した情報を提示することによって触感の要素を同定することを目指していた.現在までに皮膚変形の高時間分解能記録についてはほぼ達成しているが,触覚ディスプレイを用いた情報提示に関しては,1次元アレイを用いた触覚ディスプレイの試作を行っているが記録したデータの再現には至っていない.一方で当初は予定していなかった垂直方向の皮膚変形による触感として粘着感をとりあげ,その計測系を完成させている. タッチパネルへの応用が可能な触覚提示技術に関して,実験装置としての触覚提示装置の開発は順調であり,原理の確認をする目的においては十分な完成度に達しつつある.心理学実験については,多くの被験者による実験はこれから実施するとして,予備的な実験の結果は期待とおりである. 以上により,おおむね順調に研究が進んでいる.
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今後の研究の推進方策 |
触感要素の同定に関しては,平成28年度に改良を加えた皮膚変位計測装置を用い,様々なテクスチャ面における皮膚変形を観測,主観的な評価との対応関係から,皮膚変形と質感との関係を明らかにする.さらに高密度に皮膚変形を提示する触覚ディスプレイによって計測した皮膚振動を再現し,触感が再現できることを確認,さらに皮膚変形の時空間要素を抽出提示することで,前述の皮膚変形と質感との関係を確認する.また平成28年度に作成を開始した粘性感に関する計測システムを高精度化し,皮膚に加わる力分布と粘性感との対応関係を明確化するとともに,マトリクス状の触覚ディスプレイによって再現提示する. 以上のように平成29年度は,皮膚上の時空間パターンの変化と触感との対応関係を明確化することに注力する. タッチパネルへの応用が可能な触覚呈示技術に関して,これまでに試作した装置の改良と評価を引き続き行う.改良は装置の小型化および周波数特性に関するものである.後者は主に共振特性の抑制を目的とする.加えて,表面に複雑な凹凸パターンを有する仮想テクスチャを,機械的振動刺激と摩擦刺激を用いて提示する技術を開発し,その評価を心理学実験にて実施する.すなわち,従来の触覚提示装置では実現できなかった仮想テクスチャの提示が可能であることを実証していく.
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