研究領域 | 温度を基軸とした生命現象の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
15H05928
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設) |
研究代表者 |
富永 真琴 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 岡崎統合バイオサイエンスセンター, 教授 (90260041)
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研究分担者 |
高木 昌宏 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 教授 (00183434)
久原 篤 甲南大学, 理工学部, 准教授 (00402412)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 生理学 / 神経科学 / 温度生物学 |
研究実績の概要 |
1.人工脂質二重膜計測システムを立ち上げ、精製TRPM3タンパク質を導入して膜脂質とチャネルタンパク質だけの再構成系でTRPM3の機能を解析した。硫酸プレグネノロンによるTRPM3チャネルの活性化にはPIP2が必要であった。ニフェジピンのみの働きでTRPM3が活性化した。熱単独での活性化は観察されなかった。2.蚊TRPA1の化学物質および熱による活性化を解析した。3.マウス膀胱上皮(最上層)でのTRPM7チャネルの発現遺伝子レベルおよびタンパク質レベルで確認し、TRPM7 conditional KOマウスを作成した。TRPM7が細胞接着に関与することが分かった。4.過酸化水素によるTRPM2の感作がマウス膵臓β細胞でも観察された。グルコースによって産生された過酸化水素が温度依存的に膵島からのインスリン分泌を促進することが分かった。5.温度と膜の相分離構造の関係性について、免疫系T細胞を用いて明確にした。特に、細胞の膜構造のダイナミクスに、アクチンや微小管などの細胞骨格が関与している点を明らかにした。膜相分離構造への温度の効果を明確にした上で、温感剤、冷感剤、局所麻酔薬など、様々な生理活性物質の添加効果について明らかにした。(高木)6.シンプルな実験動物を用いて、温度情報伝達への関与の報告のない遺伝子に焦点をあてて3量体Gタンパク質を介した温度情報伝達に関わる新規分子の単離を進めている。(久原)7.水酸化脂肪酸のショウジョウバエTRPA1に対する効果を検討した。(梅田班との連携)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.温度感受性TRPチャネルの生理機能解析、人工脂質二重膜計測システムを立ち上げと精製TRPM3タンパク質のチャネル機能解析、昆虫温度感受性TRPチャネル解析、等いずれの研究においても大きな進展があった。 2.生きた細胞の実験系と、人工細胞を用いた実験系を並行させて進める体制は、構築できていると言える。それらを通して、生細胞特有の現象(例えば、アクチンや微小管の膜ダイナミクスへの関与)も認められている。さらには、例えば冷感剤メントールが、ラフト構造を安定化している事、温感剤カプサイシンや、局所麻酔薬(リドカイン、テトラカイン)がラフト構造を不安定化している事などが、明らかとなった。今後は、温感、冷感に関わる膜チャネルとの関係を詳細に調べ、今後の温感・冷感研究を柱とする温度生物学の進展に貢献したい。(高木) 3.新規の温度受容体やその制御分子の同定に向け約500個の遺伝子についてRNAiを用いた解析を行い、温度情報伝達に関与する可能性のある候補遺伝子を絞り込んだ。(久原)
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今後の研究の推進方策 |
1.温度感受性TRPチャネルTRPV4, TRPV3の生理的意義の解析を進める。TRPV1, TRPA1蛋白質を精製して、人工脂質二重膜計測システムを用いて解析を行う。細胞内温度計測システムとIRレーザーによる細胞内温度制御システムを確立させる。蚊を含めた昆虫のTRPA1遺伝子のクローニングと機能解析を進める。 2.これまで、免疫系T細胞を中心に扱ってきたが、今後は神経細胞やヒト胎児由来腎臓細胞等を用いた実験を行いたいと考えている。また、ラフトダイナミクスに関して、相分離構造だけでなく、小胞輸送にも焦点を当てたい。膜ダイナミクス(細胞サイズリポソームの相分離構造、形態変化)に関する知見は、蓄積しつつあるので、示差走査熱量計(DSC)やNMR等を用いた分子レベルでの相互作用解析や、光学異性体が異なる生理作用を示す原因を解明する方向での研究を展開させたいと考えている。(高木) 3.温度情報伝達に関与する可能性のある新規候補遺伝子を絞り込んだため、それらの発現細胞やノックアウト系統の作製を行う。(久原)
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