計画研究
Hikeshiの5’非翻訳領域と第一エクソンが、Cre-loxPシステムによって除かれるfloxマウスを作成した。EIIa-Creマウスと交配させ、全身でHikeshiがノックアウトされたマウスは、産仔が得られるものの、生後48時間以内に100%死亡する。肺と脳に形態異常が見られ、micro CTで解析すると、褐色脂肪組織の減弱が見られた。Hikeshiノックアウトマウス胎生期14.5日胚(E14.5)からMEF(マウス胚性繊維芽細胞)を採取し、基本的な性質を調べた。HeLa細胞と同様に、野生型MEFでは、熱ストレス時にHsp70が核局在するのに対し、HikeshiノックアウトMEFではHsp70の核局在は見られなかった。しかし、HikeshiノックアウトMEFは、野生型MEFに比べて熱ストレス耐性が強くなることがわかった。これは、HikeshiをsiRNAでノックダウンすると熱ストレスに感受性になるHeLa細胞とは逆の現象である。また、HikeshiノックアウトMEF細胞を培養すると、野生型MEFよりも、早期に老化マーカーであるSA-βgal(Senescence-associated beta-galactosidase)が検出される。こうした性質をもつMEF細胞の体温概日リズムが異常(細胞時計の位相が遅れる)であることが、土居ら(京大)との共同研究でわかってきた。CRSPR/Cas9を利用したゲノム編集技術を用いて、HeLa細胞とhTERT-RPE1(テロメラーゼで不死化されたヒト網膜色素上皮細胞)の2つの細胞種でHikeshiをノックアウトした。熱ストレス時のHsp70の核局在化活性を指標に、細胞内Hikeshiの活性を確認した。熱ストレス耐性をはじめとするHikeshi欠損の影響が、正常細胞と癌細胞で異なるかを調べるために、この2種類の細胞を作成した。
2: おおむね順調に進展している
Hikeshiノックアウトマウスと、CRSPR/Cas9システムを利用した2種類のHikeshiノックアウトヒト培養細胞(HeLa細胞とRPE細胞)の樹立を終え、解析の準備を整えることができた。ノックアウトマウスを使った解析から、Hikeshiノックアウトマウスが生後すぐに致死になること、脳と肺に形態学的な異常が見られること、また、褐色脂肪組織にも減弱が見られることがわかり、Hikeshiの機能を解析する上でいくつかの手がかりが得られている。Hikeshiノックアウトマウス胚から採取したMEF細胞の解析からは、Hikeshi機能が細胞老化に影響することと、体温概日リズム形成に促進することがわかり、今後の解析課題となる。また、思いがけないことに、MEF細胞では、HeLa細胞と逆に、Hikeshi欠損が熱ストレスに耐性になることがわかった。癌細胞と正常細胞ではHikeshi欠損に対して逆の影響が見られ、これまで予想しなかったHikeshi機能の別側面を考えるきっかけを得た。
研究材料が順調に整い、今後、最初の研究計画の通り、Hikeshi機能と細胞内シグナリング、エネルギー代謝、並びに、体温概日リズムの関係を解析していく。細胞レベルの解析に加え、Hikeshiノックアウトマウスの個体レベルの解析も進める。また、当初の計画に加えていなかった解析として、Hikeshi機能が癌細胞と正常細胞でどのように違うかを調べていく予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 図書 (2件)
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