計画研究
12.5週齢のHikeshiノックアウト胚から調整したMEF(マウス胚繊維芽)細胞、CRSPR/Cas9でHikeshiをノックアウトしたHeLa細胞とRPE (網膜色素上皮)細胞を用いて、Hikeshiをノックアウトしたときに影響を受けるシグナリング分子を解析した。その結果、Hikeshiをノックアウトすると、MEF細胞とRPE細胞ではAMPキナーゼの活性が亢進することがわかった。その上流キナーゼLKB1に変異をもつHeLa細胞では、HikeshiノックアウトでAMPキナーゼ活性の亢進は見られない。一方で、MEF細胞、HeLa細胞、RPE細胞のいずれも、Hikeshiをノックアウトすると、転写因子HSF1が活性化し、その下流遺伝子の発現が亢進することがわかった。このことから、Hikeshiは、タンパク質毒性ストレス応答とメタボリックストレス応答の両方を制御する可能性が考えられる。生まれる直前のHikeshiノックアウトマウスで褐色脂肪組織の減弱が見られたため、サーモグラフィーを使って、生後直後のノックアウトマウスの体温測定を行った。生後12時間を経過するとノックアウトマウスの体温低下が見られた。また、褐色脂肪細胞のUCP1の発現が低下することがわかった。一方で、Hikeshiノックアウトマウスの皮膚バリア機能の低下は認められなかった。熱ストレスによる輸送経路の切り替えがおこる制御機構を解析するため、サーモサイクラーを利用して、高精度に温度制御できる熱ストレス実験系の樹立を試みた。コンパクトなサーモロガー(多チャンネルメモリ機能付き温度計測器)を用いて、さまざまに温度設定したウェルの温度を実測すると、誤差+/-0.2℃以下の精密な温度制御が実現できることがわかった。37℃から45℃の1時間以内で、様々な輸送プローグを用いて生細胞の輸送反応をモニターできることがわかった。
2: おおむね順調に進展している
Hikeshiを熱ストレスで駆動する運搬体分子として同定したが、Hikeshiノックアウトでマウスが致死になることや、Hikeshi点変異でヒト疾患が誘引されるなど、Hikeshiの機能が熱ストレスだけでは説明できないことがわかってきた。Hikeshiノックアウト細胞で調べると、熱ストレスを受けていない正常時でHikeshiをノックアウトすることで、1)タンパク質恒常維持を司るマスターである転写因子HSF1の活性制御が影響を受けること、2)エネルギー代謝をセンスするAMPキナーゼの活性制御が影響を受けることの2点を明らかにすることができた。熱ストレス時以外のHikeshiの細胞機能を解析する上で、有用な情報を得たと考えている。一方、ノックアウトマウスの解析は順調とはいえない。生後直後のHikeshiノックアウトマウスで体温低下が見られ、また、脳切片は肺切片にも僅かな異常が見られるが、マウスが致死に至るdefectが説明できるとは考えにくい。血中酸素濃度も、皮膚バリア機能にも大きな影響は見られなかった。Hikeshiの細胞機能をもう一度掘り下げた上で、マウスに見られたHikeshiノックアウトphenotypeの解析が必要であると考える。一方で、サーモサイクラーを使って高精度に温度制御が可能な、新しい核―細胞質間輸送実験系を樹立できたことは有意義である。本実験系は、温度上昇勾配の制御が可能、同時にさまざまな温度で実験ができ、しかも、高い温度再現性があるなど従来にない利点がある。多様な輸送経路の温度感受性の解析が、はじめて可能になってきた。
Hikeshiノックアウトマウスの個体レベルの解析を進める前に、Hikeshiの細胞機能を、先ずは、掘り下げて解析する。細胞レベルの知見としては、Hikeshiを欠損すると、タンパク質恒常性維持のマスター転写因子であるHSF1の活性が緩やかに上昇することがわかり、Hikeshiが熱ストレス以外の正常時に、basalレベルのタンパク質恒常性の維持に関与する可能性が考えられる。そのメカニズムを明らかにすることを、第1の目標とする。とくに、これまでの解析で、Hikeshiが細胞内で相互作用する分子がHsp70だけであることを踏まえ、Hikeshiが細胞内でHsp70の機能をどのように制御するのかを明らかにする。HikeshiによるHsp70核内輸送活性とHSF1の活性制御の関係にも着目する必要がある。そのためには、HikeshiがHsp 70の輸送を担うメカニズム(熱ストレス以外にも輸送を担う可能性があるのか)をより詳細に解析する必要がある。また、HSF1活性制御とAMPキナーゼ活性制御を繋ぐメカニズムの存在を探る。精密に温度を制御した実験系を利用して、Hikeshi依存的な分子シャペロンHsp70の核内輸送が活性化される温度と、低分子量GTPaseRanに依存した核内輸送や核外輸送が抑制される温度を明らかにする。輸送活性が変化する温度閾値で、輸送因子それぞれの活性にどのような変化が生じるかを調べることで、温度で核―細胞質間輸送経路の切り替えがおこる制御機構を明らかにしていく。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 1件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 1件、 招待講演 6件) 備考 (3件)
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