• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2017 年度 実績報告書

細胞質・細胞核の温度センシング機構の解明

計画研究

研究領域温度を基軸とした生命現象の統合的理解
研究課題/領域番号 15H05929
研究機関国立研究開発法人理化学研究所

研究代表者

今本 尚子  国立研究開発法人理化学研究所, 今本細胞核機能研究室, 主任研究員 (20202145)

研究期間 (年度) 2015-06-29 – 2020-03-31
キーワード核ー細胞質間輸送 / 熱ストレス / Hikeshi / Importin / 温度制御実験 / 熱ショックタンパク質Hsp70
研究実績の概要

HeLa細胞では、Hikeshiをノックダウンして熱ストレスに曝すと生存率が低下してストレス感受性を示すのに対して、HikeshiノックアウトMEF(mouse embryonic fibroblast)細胞は、熱ストレスに曝すと生存率が上がってストレス耐性を示す。このように、Hikeshi欠損で熱ストレス感受性が細胞によって逆になるのは何故かを解析するため、CRSPR/Cas9を利用して、ヒトHeLa細胞(子宮頸がん細胞)とhTRET-RPE1細胞(不死化網膜上皮細胞:正常2倍体細胞)のHikeshiをノックアウトした細胞株を樹立して、そのストレス感受性を調べた。その結果、HikeshiノックアウトHeLa細胞では、熱ストレスに曝すと生存率が下がってストレス感受性を示すが、HikeshiノックアウトhTERT-RPE細胞では、熱ストレスに曝すと生存率が上がってストレス耐性になることがわかった。MG132処理でも同様の逆の現象が見られた。また、生存率と一致して、ストレスでHikeshiをノックアウトするとHeLa細胞ではアポトーシス活性が上昇するのに対して、hTERT-RPE1細胞ではアポトーシス活性が低下する。シグナリング因子を調べると、Hikeshiをノックアウトすることで、転写因子HSF1と癌抑制遺伝子p53の活性に影響が見られることがわかった。
精密な温度制御ができる実験系の樹立をして、細胞内で働く様々な核―細胞質間輸送経路それぞれの温度感受性を調べた。その結果、温度を上昇させると、まずHsp70/Hsc70輸送が駆動し、次にImportinα/β核内輸送が低下することがわかった。他のRan依存的なImportinβファミリー輸送はそれよりも高い温度で低下する。これらのことから、細胞の中で働く核―細胞質間輸送は、温度によって多段階的に制御されることが判明した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

HeLa細胞を用いた以前の解析から、Hikeshiが欠損すると細胞はストレスダメージから回復せず死滅すると、単純に考えていた。しかし、今年度の研究から、Hikeshiが欠損するとHeLaなどの癌細胞はストレスをかけると生存率が下がったストレス感受性になるが、正常2倍体細胞は、ストレスをかけると逆にストレス耐性になることがわかった。ストレス感受性が逆になるのは、Hikeshiノックアウトによるアポトーシス活性の上昇と低下によるものと考えられる。この現象は、Hikeshiをノックアウトすることでp53の活性が影響を受けることと深く関係すると考える。HeLa細胞でも、hTERT-RPE細胞でも、Hikeshiをノックアウトするとp53の発現が亢進する。HeLaのp53にはtransactivation活性がないが、アポトーシスを誘引する活性を持つことが知られている。一方で、hTERT-RPE細胞では、p53が亢進すると、その下流のp21の発現が強く亢進し、アポトーシス活性を抑制すると考えられる。このように、これまで現象しかわかっていなかったHikeshi機能喪失の影響が、分子レベルで説明できる端緒を掴んだと言える。このことは、Hikeshi機能の分子メカニズムを明らかにする上で大きな進展である。
精密な温度制御が可能な実験系を樹立したことにより、核―細胞質間輸送が温度によって多段階的に制御されるという、新しい概念を創出することができた。

今後の研究の推進方策

Hikeshiでp53やHSF1の活性が制御されることがわかってきた。このことから、核内Hsp70がp53とHSF1の活性を制御する可能性が考えられる。今後、2因子の活性制御が核内Hsp70の作用であることを証明するとともに、制御の分子メカニズムを明らかにして行く。これまでわかってきたHikeshiの機能喪失に伴う様々な現象が引き起こされるメカニズムの解析が進むと期待できる。
Hikeshiの機能が喪失すると、生体に様々な影響が見られ、Hikeshiの重要性がわかる。一方で、Hikeshiの活性化メカニズムは不明であり、明らかにしなければいけない重要な問題である。今年度の温度制御の実験から、Hsp70が駆動する核内輸送の温度が、タンパク質が一般的に変性する温度よりも低い特定温度であることがわかった。この特定温度で、Hsp70とHikeshiタンパク質が結合するのではないかと考える。Thermal shift assayなどを用いて、Hsp70とHikeshiタンパク質の温度変化による物理化学的性質を調べることで、その可能性を探る。
核-細胞質間輸送を担う異なる輸送経路のそれぞれが、異なる温度を感知して輸送活性を変化させることがわかってきた。感知のメカニズムを明らかにしていく。中でも、Ran依存的なImportinファミリー輸送経路の中では、Importinα/β輸送経路が他の輸送経路に比べて低い温度で抑制される。この輸送経路に特異的なImportinαに焦点をあて、温度で変化する物理化学的特性を調べる。また、核-細胞質間輸送が温度によって多段階的に制御されることの生理的意義を明らかにする。

  • 研究成果

    (20件)

すべて 2018 2017 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 2件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (3件)

  • [国際共同研究] アサンメディカルセンター(韓国)

    • 国名
      韓国
    • 外国機関名
      アサンメディカルセンター
  • [国際共同研究] ストラスブール大学(フランス)

    • 国名
      フランス
    • 外国機関名
      ストラスブール大学
  • [雑誌論文] Nuclear transport adapts to varying heat stress in a multistep mechanism.2018

    • 著者名/発表者名
      Ogawa Yutaka、Imamoto Naoko
    • 雑誌名

      J. Cell Biol.

      巻: - ページ: 印刷中

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Y-box protein-associated acidic protein (YBAP1/C1QBP) affects the localization and cytoplasmic functions of YB-12018

    • 著者名/発表者名
      Matsumoto Ken、Kose Shingo、Kuwahara Iku、Yoshimura Mami、Imamoto Naoko、Yoshida Minoru
    • 雑誌名

      Scientific Reports

      巻: 8 ページ: 6198

    • DOI

      10.1038/s41598-018-24401-3

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Ki-67 and condensins support the integrity of mitotic chromosomes through distinct mechanisms2018

    • 著者名/発表者名
      Takagi Masatoshi、Ono Takao、Natsume Toyoaki、Sakamoto Chiyomi、Nakao Mitsuyoshi、Saitoh Noriko、Kanemaki Masato T.、Hirano Tatsuya、Imamoto Naoko
    • 雑誌名

      Journal of Cell Science

      巻: 131 ページ: 212092-212092

    • DOI

      10.1242/jcs.212092

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Heat stress-induced nuclear transport mediated by Hikeshi confers nuclear function of Hsp70s2018

    • 著者名/発表者名
      Imamoto Naoko
    • 雑誌名

      Current Opinion in Cell Biology

      巻: 52 ページ: 82~87

    • DOI

      10.1016/j.ceb.2018.02.010

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Regulating β-Catenin Nuclear Import with the Small GTPase Rap2018

    • 著者名/発表者名
      Imamoto Naoko
    • 雑誌名

      Developmental Cell

      巻: 44 ページ: 135~136

    • DOI

      10.1016/j.devcel.2018.01.004

    • 査読あり
  • [雑誌論文] A statistical image analysis framework for pore-free islands derived from heterogeneity distribution of nuclear pore complexes2017

    • 著者名/発表者名
      Mimura Yasuhiro、Takemoto Satoko、Tachibana Taro、Ogawa Yutaka、Nishimura Masaomi、Yokota Hideo、Imamoto Naoko
    • 雑誌名

      Scientific Reports

      巻: 7 ページ: 16315

    • DOI

      10.1038/s41598-017-16386-2

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Effect of an inhibitor of HSP70, YM-1 on Hikeshi knockout cells.2017

    • 著者名/発表者名
      Rahman Khondoker Md Zulfiker、Kose Shingo、Imamoto Naoko
    • 雑誌名

      Thermal Medicine

      巻: 33 ページ: 129-134

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] Hikeshi modulates the proteotoxic stress response in human cells: Implication for the importance of the nuclear function of HSP70s2017

    • 著者名/発表者名
      Rahman Khondoker Md Zulfiker、Mamada Hiroshi、Takagi Masatoshi、Kose Shingo、Imamoto Naoko
    • 雑誌名

      Genes to Cells

      巻: 22 ページ: 968~976

    • DOI

      10.1111/gtc.12536

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] The Mcm2?7-interacting domain of human mini-chromosome maintenance 10 (Mcm10) protein is important for stable chromatin association and origin firing2017

    • 著者名/発表者名
      Izumi Masako、Mizuno Takeshi、Yanagi Ken-ichiro、Sugimura Kazuto、Okumura Katsuzumi、Imamoto Naoko、Abe Tomoko、Hanaoka Fumio
    • 雑誌名

      Journal of Biological Chemistry

      巻: 292 ページ: 13008~13021

    • DOI

      10.1074/jbc.M117.779371

    • 査読あり
  • [学会発表] 「核膜孔複合体のダイナミクス」2018

    • 著者名/発表者名
      今本尚子
    • 学会等名
      平成29年度4D細胞計測全体会議理化学研究所 多細胞システム形成センター 兵庫県
  • [学会発表] 熱ストレス時と正常時における分子シャペロンHsp70核内輸送運搬体Hikeshiの機能2017

    • 著者名/発表者名
      今本尚子、Rahman Khondoker MD Zulfiker、儘田博志、小瀬慎吾
    • 学会等名
      生命科学系合同年次大会“プロテオスタシス制御の新展開と疾患”ワークショップ、神戸ポートアイランド、兵庫県
    • 招待講演
  • [学会発表] 熱ストレス時における核-細胞質間輸送とHikeshiの機能2017

    • 著者名/発表者名
      今本尚子
    • 学会等名
      Biothermology Workshop 2017, 東京大学 薬学部、東京都
    • 招待講演
  • [学会発表] Hikeshi, a nuclear import carrier for molecular chaperone Hsp70~its cellular function2017

    • 著者名/発表者名
      Naoko Imamoto
    • 学会等名
      Nuclear Transport Meeting, Sant Felie de Guixols, Spain.
    • 国際学会
  • [学会発表] 「細胞質・温度センシング」2017

    • 著者名/発表者名
      今本尚子
    • 学会等名
      新学術領域会議 京都大学 芝蘭会館、稲盛ホール・山内ホール 京都府
  • [学会発表] 「抗がん作用への貢献が示唆されるHikeshiの細胞機能」2017

    • 著者名/発表者名
      Rahman Khondoker MD Zulfiker、儘田博志、高木昌俊、小瀬真吾、今本尚子
    • 学会等名
      第35回染色体ワークショップ・第16回 核ダイナミクス研究会 蒲郡 愛知県
  • [備考] 今本細胞核機能研究室/理化学研究所 紹介ページ

    • URL

      http://www.riken.jp/research/labs/chief/cell_dyn/

  • [備考] 今本細胞核機能研究室ホームページ

    • URL

      http://www.riken.jp/celldynamics/

  • [備考] 「定量的画像解析による核膜動態の解明」 プレスリリース 2017/12/12

    • URL

      http://www.riken.jp/pr/press/2017/20171212_2/

URL: 

公開日: 2018-12-17  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi