計画研究
様々な動物細胞が環境温の変動に応答してミトコンドリアを始めとするエネルギー代謝機構を代償的に変化させることが知られている。しかし、個々の細胞がどのようにして細胞内の温度を感知し、ミトコンドリアのエネルギー代謝レベルを変化させているのか依然不明である。そこで本研究では、細胞内の温度変化に応答した脂肪酸不飽和化酵素DESAT1の発現制御機構及びミトコンドリアの機能制御におけるDESAT1の役割を解析することで、細胞が温度変化を認識する機構とエネルギー代謝制御を介して温度変化へ適応する機構の解明を目指している。これまでに、ショウジョウバエ培養細胞S2の唯一の脂肪酸不飽和化酵素DESAT1が生体膜の流動性の変化に応答したタンパク質分解制御を受けること、この分解制御機構にDESAT1のN末端の連続する2つのプロリン残基(di-proline motif)が必須であることを明らかにした(Murakami et al. J. Biol. Chem. 2017)。さらに、生化学的な手法により、生体膜の流動性の変化に応答してdi-proline motif依存的にDESAT1と相互作用する分子としてTCA回路の構成因子であるクエン酸合成酵素を同定した。また、DESAT1の特異的阻害剤や遺伝子欠損によりミトコンドリアが断片化し膜電位が低下すること、蛍光性ポリマー温度プローブを用いた解析から、DESAT1の機能阻害により細胞内温度が低下することを明らかにした。一方、温度変化や生体膜脂質の流動性の変動を細胞が感知する機構を探索するために、DESAT1欠損細胞および低温暴露した細胞において発現変動する遺伝子をDNAマイクロアレイ解析により探索し、温度変化や膜脂質流動性の変化に特異的に応答して20倍以上に発現変動する遺伝子を数多く同定することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
これまで細胞内の温度変化に応答して発現が変化し、細胞膜の流動性を調節すると考えられていた脂肪酸不飽和か酵素が、細胞内温度の調節にも関わることを新たに見出した。CRISPR/Cas9システムにより樹立したDESAT1欠損細胞を用いた解析から、同分子がミトコンドリアの脂質組成の制御のみならず、ミトコンドリアの形態制御にも関わることで、エネルギー代謝の制御に強く関与することを明らかにした。さらに脂肪酸不飽和化酵素に依存して発現変動する多数の遺伝子の同定に成功した。
1)ショウジョウバエの脂肪酸不飽和化酵素DESAT1が生体膜の流動性の変化に応答したタンパク質分解制御を受け、この分解制御にはN末端の連続する2つのプロリン残基(di-proline motif)が必須であることを明らかにした。本年度は、生化学的手法を駆使して、di-proline motif依存的にDESAT1と相互作用する分子群のスクリーニングを進める。2)DESAT1の特異的阻害剤や遺伝子欠損によりミトコンドリアが断片化し膜電位が低下すること、さらにDESAT1の機能阻害により細胞内温度が低下することが明らかとなった。DESAT1機能阻害によるミトコンドリア形態変化・膜電位変化の分子機構を詳細に解析することにより、脂肪酸不飽和化酵素を介するエネルギー代謝制御の分子機構の解明を目指す。3)昨年度、温度変化や生体膜脂質の流動性の変動を細胞が感知する機構を探索するために、DESAT1欠損細胞および低温暴露した細胞において発現変動する遺伝子をDNAマイクロアレイ解析により探索し、温度変化や膜脂質流動性の変化に特異的に応答して20倍以上に発現変動する遺伝子を数多く同定した。本年度は、このようにして見出した遺伝子の発現制御機構ならびに温度変化への適応における役割を明らかにする。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件)
Carotenoid Science
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