計画研究
1. 体内の栄養状態が末梢から脳へ伝達され、体温や代謝を調節する神経回路へ作用することで飢餓を生き抜き、過剰なエネルギーを消費することは恒常性維持の重要な調節機能である。本年度は、研究分担者の山田と研究代表者が共同研究を行い、糖尿病治療薬であるsodium glucose cotransporter-2阻害剤、dapagliflozinの投与が体重を減少させないのは、褐色脂肪組織での代謝性熱産生が低下することが原因であることを解明し、論文発表した(Chiba et al. PLoS One, 2016)。マウスにdapagliflozinを投与すると、褐色脂肪組織の交感神経活性が低下して熱産生が減少した。この熱産生低下は、dapagliflozinによって糖貯蔵が低下する肝臓が飢餓信号を迷走神経経由で脳に伝えることにより、延髄からの交感神経出力が抑制されることで生じることが分かった。この研究で得られた知見は肥満者の糖尿病治療方針の策定に重要なものである。2. 研究代表者はオレゴン健康科学大学との国際共同研究によって、視床下部が飢餓を感知して生み出す信号が代謝(熱産生)を抑制するとともに摂食を促進する上で鍵となる延髄の神経細胞を発見した。この神経細胞は視床下部由来の飢餓信号によって活性化され、褐色脂肪熱産生を抑制するとともに咀嚼や摂食、唾液分泌を促進することが分かった。3. 研究代表者は温度生物学領域の南班と協働して行動性体温調節に必要な温度情報を脳へ伝達する神経経路を同定するため、ラットの行動実験セットアップを構築し、温度選択行動解析の予備検討実験を実施した。4. 研究代表者は、体温のセットポイント決定機構を解明するため、ラット体温調節中枢の温度感受性ニューロンから神経活動記録を行った。また、視交叉上核からの時計信号が体温調節中枢へ伝達する仕組みの解析にも着手した。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究の主要目的の一つが栄養状態に基づいて体温と代謝が適切に調節される仕組みを解明することである。この仕組みは、人間を含めた哺乳類に共通して備わった、「温度を利用した生命機能」の代表的な例であることから、本新学術領域のA02の重要な推進課題となっている。また、そのため、この研究項目は研究代表者と研究分担者の山田が協働して推進している。その研究項目において、本年度は研究分担者の山田と研究代表者との共同研究として、糖尿病治療における重要な知見を得ることに成功し、論文発表の成果を挙げることができた。また、研究代表者は飢餓反応の発現に重要な機能を担う新規の神経細胞群を同定することに成功した。その他の研究項目についても、本新学術領域の発足初年度ということで、研究の着手や予備検討実験を計画通りに実施することができた。一方で、本研究に参画する研究員の採用が遅れたため、行動実験の開始に若干遅れがあったが、次年度に速やかに実施して遅れを取り戻すことができる見通しである。以上の進捗状況に鑑み、本研究は当初の計画以上に進展しているものと判断する。
肝臓から脳への栄養情報がどのようにして体温・代謝調節系に影響を与えるのか、その仕組みは興味深く、温度生物学においても大変重要な問題である。したがって、研究代表者と研究分担者の山田の共同研究をさらに進め、詳細な解析を進めていく。また、本年度は研究代表者が飢餓反応の発現に重要な機能を担う新規の神経細胞群を同定することに成功したが、この発見についても早急に論文発表のためのデータのとりまとめを進めていく。体温調節行動の中枢神経回路メカニズムについては、「温度情動」が関与する可能性が高く、情動研究の専門家である南雅文教授(北海道大学)と共同研究を行うことで解明を進める。体温のセットポイント決定メカニズムや概日リズム形成メカニズムについても領域内共同研究を通じて精力的に進めていく予定である。
すべて 2016 2015 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (24件) (うち国際学会 5件、 招待講演 17件) 図書 (2件) 備考 (2件)
PLoS One
巻: 11 ページ: e0150756
10.1371/journal.pone.0150756
Temperature
巻: 2 ページ: 352-361
10.1080/23328940.2015.1070944
Brain and Nerve
巻: 67 ページ: 1205-1214
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/physiol2/
https://www.med.nagoya-u.ac.jp/physiol2/english.html