研究実績の概要 |
当初の年度研究計画に従って概日時計が関与する未解決の温度生物学上の問題ついての研究調査スクリーニングを行った。具体的には、温度変化が体内時計の位相を変化させる仕組みに関して、培養細胞を用いた温度アッセイ系を構築し、その系を用いて温度と体内時計機構の接点となりえる中核時計蛋白質PER2の蛋白質変動プロファイルを簡便に培養細胞レベルでとらえる方法を樹立することができた(Tainaka et al, Chronobiol Int, in press)。また、脳内のサーカディアンリズム中枢が体温の日内リズムを生み出すための神経回路を調査する研究において、細胞内の温度応答分子であるHikeshiや脳内中枢時計器官に発現する新規のG蛋白質共役受容体シグナルを標的とした探索研究を推し進めることができた(Goto et al, Endocr J, in press; Doi et al, Nat Commun 2016)。また、脳内中枢時計と自律神経系との関係を調べるなかで、アセチルコリン受容体作動薬であるカルバコールが脳内中枢時計の位相を位相依存的に調整する能力があることを明らかにした(Dojo et al, J Biol Rhythms, in press)。この他、計画班A01-2との連携によって、細胞内温度応答分子下流シグナルを検出するためのアッセイ法の整備を進めることができた。今後、これらの成果に基づくさらなる研究によって、細胞レベルでの温度概日時計連絡機構や、生体レベルにおける体温の日内変動の発生メカニズムの理解につながると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に引き続き、当初の研究計画に従って概日時計が関与する未解決の温度生物学上の問題ついての研究調査スクリーニングを行った結果、現状で予想を上まわる良好な結果が得られつつある。具体的には、温度変化が体内時計の位相を変化させる仕組みに関して、培養細胞を用いた温度アッセイ系を構築し、その系を用いて温度と体内時計機構の接点となりえる中核時計蛋白質PER2の蛋白質変動プロファイルを簡便に培養細胞レベルでとらえる方法を樹立することができた(Tainaka et al, Chronobiol Int 2017)。またさらに、計画班A01-4の岡部らとの共同研究においては、温度非感受性のルシフェラーゼをあらたに導入することによって、顕微鏡下での単一培養細胞リズム追跡法と経時的加温法の併用利用が可能となった。一方、計画班A01-2の今本らと進めていた温度応答分子Hikeshiの解析については、一年間の交配繁殖テストの結果、Hikeshi Floxedマウスを用いた視床下部域コンディショナルノックアウトが致死となることが判明し、Hikeshiを用いた個体での体温制御機構の道は閉ざされてしまったが、それと並行して進めていた視交叉上核GPCRを標的とした探索研究(Goto et al, Endocr J 2017)において体温の日内変動パターンを規定する可能性のあるGPCRを新たに見出すことができた。このように、仮説検証の結果のなかで成否はあるものの、研究計画自体は順当に進んでおり、新たな解析ツールの確立、ならびに体温制御機構の新たな分子機構の理解への重要な糸口を得ることができた。
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