計画研究
研究計画に従って概日時計が関与する未解決の温度生物学上の問題ついての研究調査スクリーニングを行った。具体的には、脳内のサーカディアンリズム中枢が体温の日内リズムを生み出すための神経回路を調査する研究において、新規のG蛋白質共役受容体シグナルを標的とした探索研究を推し進めた結果(Goto et al, Endocr J, 2018)、体温変動調節の鍵となる分子としてカルシトニン受容体を同定することに成功した(Goda & Doi et al., Genes Dev 2018)。この受容体は、体内時計の最高位中枢器官である脳内の視交叉上核の一部のニューロンに発現し、体温の日内変動パターンを規定することがわかった。同様のカルシトニン受容体ニューロン系はショウジョウバエにも存在し、ショウジョウバエにおいても同様に体温の時間依存的な適応に深く関与することから、本受容体を介した体温の日内変動制御は進化的に保存された原始的な仕組みであることわかった。これら一連の研究成果は、エネルギー代謝や睡眠覚醒の制御に密接に関与する体温の日内制御において、これまで不明であった鍵となる脳内分子基盤を明らかにするものであり、新聞報道などにおいてもその発見の重要性が広く取り上げられた(朝日新聞2018/2/14朝刊33面; 京都新聞2018/2/14朝刊1面; 読売新聞2018/2/17夕刊12面)。この他にも、温度変化が体内時計の位相を変化させる仕組みに関する調査研究において、培養細胞を用いた温度アッセイ系を構築し、その系を用いて温度と体内時計機構の接点となりえる時計遺伝子のmRNAおよび蛋白質変動の温度応答プロファイルを追跡することができた。
1: 当初の計画以上に進展している
前年度に引き続き、当初の研究計画に従って概日時計が関与する未解決の温度生物学上の問題ついての研究調査スクリーニングを行った結果、本年度は研究が大変順調に進み、予想を上まわる良好な研究成果をあげることができた。すなわち、脳内のサーカディアンリズム中枢が体温の日内リズムを生み出すための神経回路を調査する研究において、体温変動調節の鍵となる新規分子としてカルシトニン受容体を同定することに成功した(Goda & Doi et al., Genes Dev 2018)。さらに、米シンシナティ病院との国際共同研究を実施し、このカルシトニン受容体ニューロン系を介した体温制御が哺乳類にのみならず昆虫のショウジョウバエにも共通にみられる分子機構であることを示すことができた(朝日新聞2018/2/14朝刊33面; 京都新聞2018/2/14朝刊1面; 読売新聞2018/2/17夕刊12面)。これらの成果は、生物種を超えた共通の体温制御の分子基盤に迫るものである。とりわけ、恒温動物と変温動物とでは体温制御の基本戦略が全く異なるのにもかかわらず、その時刻依存的な制御においては進化的に共通する分子メカニズムが作動するという今回の発見は、従来の考え方を変える画期的な所見であり、当初の予想を上回る新たな知見であると考えられる。また、本年度はこの研究の他にも、温度変化が体内時計の位相を変化させる仕組みに関して、当初の計画どおりの研究課題を遂行することができた。
前年度に引き続き、当初の研究計画に従って概日時計が関与する未解決の温度生物学上の問題にあたる。とくに、前年度までの研究調査によって良好な結果が得られつつある下記の課題に重点をおいて研究を進める。具体的には、体内時計の最高位中枢器官である視交叉上核を標的とした探索研究において、体温の日内変動パターンを規定する新たなG蛋白質共役受容体CALCRを同定することに成功した(Goda & Doi et al, Genes Dev 2018)。そこでこの研究成果を土台にして、今後はこの視交叉上核CALCRニューロン系による体温の概日性制御の神経回路を明らかにすることを最重要課題として研究を発展させる計画である。また、この体温制御の研究課題に並行し、生理的な体温変化が体内時計の位相を変化させる分子機構を調査する研究を当初の計画どおり前進させたい。前年度までの研究により、温度と体内時計機構の接点となる中核時計蛋白質の蛋白質変動プロファイルを簡便に培養細胞レベルでとらえる方法を樹立することができたため(Tainaka et al, Chronobiol Int 2018)、これを活かした細胞内シグナル伝達経路の解析を、領域内共同研究をさらに強化して推し進める計画である。
すべて 2018 2017 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 1件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 7件) 備考 (3件)
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