研究実績の概要 |
昼寝というと、マウスは夜行性であるため語弊があるが、一般に、一日の中の活動期(マウスは夜間)の途中で体温が低下して休息する時間帯がヒトを含めて多くの生物種に認められる。昨年度までに、私共は、この活動期の中期におこる体温の低下にカルシトニン受容体CALCRが必須であることを報告し(Genes Dev. 32, 140-155, 2018; Nature Commun. 7, 10583, 2016)、本年度はさらに本受容体を起点とした体温制御およびエネルギー代謝パスウェイの検証を行うことができた(Nakagawa et al., IJMS in press; 前川、土居, 内分泌・糖尿病・代謝内科 48, 415-419, 2019; 嶋谷、土居, 膜タンパク質工学ハンドブック, NTS出版344-348, 2020)。哺乳類の体内時計の中枢は脳内の視交叉上核とよばれる微小な神経核にある(Miyake & Doi, Trends Endocrinol Metab. 30, 569-571, 2019)。カルシトニン受容体はその一部を構成するニューロンに発現し、活動期中期の体温低下を惹起する。同様のカルシトニン受容体ニューロン系はショウジョウバエにも存在し、ショウジョウバエにおいても同様に体温の時間依存的な適応に深く関与する。カルシトニン受容体を介した体内時計からの神経シグナルが昼寝の体温制御を介して個体にどのような影響を及ぼすのかの研究を進めることができた。この他、私共は当年度、体内時計遺伝子の発現制御を担うゲノム上のノンコーディング領域のDNA配列が生物個体の安定な基礎体温のサーカディアン変動に必要であるという研究成果を報告することができた(Doi et al., Nature Commun 10, 2563, 2019)。このように、体内時計が関与する未解決の温度生物学上の問題についての研究調査を当初の研究計画に従って推し進めることができたといえる。
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