研究領域 | 宇宙からひも解く新たな生命制御機構の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
15H05936
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
成瀬 恵治 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (40252233)
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研究分担者 |
高橋 賢 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 助教 (50432258)
曽我部 正博 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (10093428)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 微小重力 / 過重力 / メカノバイオロジー / 細胞内シグナル伝達 |
研究実績の概要 |
細胞は単独で微小重力環境を感知応答すると考えられる。しかしながら、その際に誘導される細胞内シグナル伝達経路など、その本質的なメカニズムはまだよくわかっていない。本年度は、足場の硬さや細胞内骨格の張力に依存して活性制御を受けることが知られている転写調節因子YAPに注目し、模擬微小重力および過重力環境下においた培養細胞におけるYAP活性の変化を調べた。その結果、模擬微小重力環境下で24時間培養した間葉系幹細胞では、対照群と較べてYAP分子が核内に局在している細胞の割合が減少しており、YAP転写活性の低下が示唆された。実際、プロモーターアッセイにおいて、模擬微小重力環境においた間葉系幹細胞にYAP転写活性の低下が認められた。Western blotting法により、YAP量を解析したところほとんど変化は見られなかったことから、YAP転写活性は細胞内局在の変化に依存すると考えられた。YAPはHippo経路のLatsなどによりリン酸化を受け核外に移行するが、リン酸化にも変化は見られなかった。従って、間葉系幹細胞を模擬微小重力環境下におくと、リン酸化ではない制御によりYAPは核外へ移行しYAPシグナル活性が低下する、と考えられた。 さらに過重力条件の実験では、ラット心筋培養細胞に対し過重力(50 G、12時間)を負荷したところYAPの核内移行が認められた。一方ヒト胎児由来腎臓細胞に同条件の重力を負荷したところ、YAPの局在変化は認められなかった。このことから、細胞種によって重力応答の仕方が異なることが示唆された。 また、模擬微小重力/過重力環境下や、さらにそこに伸展やずり応力を負荷した状態においた細胞の動態を解析するために、3Dクリノスタット装置や遠心装置に搭載可能な高性能でコンパクトな蛍光顕微鏡システムを開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
微小重力および過重力に対する細胞応答を、YAPの細胞内局在変化を指標としてとらえることに成功しているため。これを足掛かりとし、重力応答シグナル伝達経路の上流の解析が可能となる。また過重力負荷による細胞内小器官の位置変化をリアルタイムで観察する遠心顕微鏡の光学系はほぼ完成し、あとは像をよりクリアにするよう調整する段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、間葉系幹細胞の模擬微小重力下での応答反応(骨分化低下等)におけるYAP活性低下の役割や、筋細胞など他の細胞種における微小重力環境下でのYAP活性低下の有無を検討する予定である。またYAPの上流に存在すると推定される重力センサー分子の特定を進める。特にイオンチャネルに着目し、機械感受性を持つイオンチャネルを阻害することにより重力応答が抑制されるかを検証する。さらに重力応答に寄与すると想定される細胞内器官として細胞骨格に着目し、細胞骨格の構造と細胞の重力応答との関係を明らかにしていく。 昨年度に行った過重力負荷の実験では、50 G, 12時間という極端な条件を負荷していた。今年度は、細胞が重力応答を示すGおよびその負荷時間の閾値を明らかにする。この閾値は細胞腫ごとに異なることが予想されるため、さまざまな細胞腫の重力応答を比較することにより、重力応答の共通原理を探索する。 これと並行し、過重力状態等の細胞の動態を開発中の遠心蛍光顕微鏡システムにより観察する。
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