研究領域 | 宇宙からひも解く新たな生命制御機構の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
15H05939
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
岩崎 賢一 日本大学, 医学部, 教授 (80287630)
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研究分担者 |
小川 洋二郎 日本大学, 医学部, 准教授 (60434073)
柳田 亮 日本大学, 医学部, 兼任講師 (00644741)
田子 智晴 日本大学, 医学部, 助手 (70780229)
大平 宇志 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 有人宇宙技術部門, 研究開発員 (40633532)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 宇宙医学 / 生理学 / 衛生学 |
研究実績の概要 |
これまでの遠心過重力負荷の研究から、負荷中の脳血流の経時的変化について捉え論文発表した。その結果から、同装置の研究および実際の宇宙開発での今後の使用に際し、負荷中の脳循環の簡便なモニターが必要と考え、平成30年度は、脳循環のモニターとして普及が進んでいる近赤外分光計を測定機器として加えた実験を行った。その結果、全般的脳血流量と局所脳組織酸素飽和度の変化の違いを捉えた。 また、微小重力曝露に伴う循環血液量や血管内水分量の減少による脳循環や頭蓋内圧の変化についても明らかにしてきた。特に平成30年度は、微小重力環境への持続的な曝露に伴う血管内水分量の減少を利尿剤投与により模擬した実験のデータから、頭蓋内圧や脳循環指標の変化を評価した。その結果、10%程度の血管内水分量の急性な減少は頭蓋内圧には影響を与えないものの脳血流速度の拍動性指標を低下させ、脳循環のインピーダンスを低下させると考えられ、原著論文として報告した。 JAXAが実施した閉鎖環境適応訓練設備での実験から得たデータに関して、解析とまとめを進め、14日間の閉鎖環境曝露は脳循環調節機能を悪化させる可能性があることを捉えたので、そのことを論文発表した。 また、「睡眠導入剤がヒトの循環系に及ぼす影響」の実験の結果から、一晩の絶飲食による脱水が脳循環調節や体循環調節に影響を及ぼす可能性を捉えたので、その影響を検討する実験を平成30年度に開始し、予定被験者15名中9名のデータ測定を終えた。 国際宇宙ステーションの宇宙飛行士を対象に、長期宇宙滞在により頭蓋内圧や脳血流が影響を受けるかを検討する実験も継続した。その実験においては国際宇宙ステーション滞在前後で、脳血流速度波形と橈骨動脈血圧波形を記録し、その波形の関係から非侵襲的に頭蓋内圧を評価した。予定した全11例のデータ測定を平成30年度に完了し、頭蓋内圧や脳血流速度の変化を捉えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの主要測定機器整備に加え、研究成果から追加検討をすると有益となると考えられたパラメーター(局所血流計)や負荷(ティルトベッド)用の機器を平成30年度に購入した。それにより、日本大学医学部での遠心人工重力装置とティルトベッドによる重力実験と、ヒューストンNASAおよび筑波宇宙センターでの宇宙飛行士対象実験、治験施設での一晩の絶飲食による脱水の循環影響の実験を、並行してほぼ同様の仕様の測定セットで実施できている。そのため、非常に効率よく各種環境因子の循環影響の研究がすすめられており、得られた研究成果を順次、国内外の学会で発表し、さらに論文としても発表し、順調に研究成果がでている。ただし、ヘッドダウンティルト実験においては、角度を増した負荷レベルと脳循環の量影響関係の検討においては、昨年度、機器整備の関係で予備実験を終了させるに留まったので、今年度は、その予備実験結果に基づき、早期に本実験を実施する予定である。 また、重力変動による循環調節機構の変化の研究に関しては、あらたな実験実施だけでなく、これまで実施した研究の更なる解析等を過年度に引き続いて実施し、研究成果を論文発表した。特に、ケンブリッジ大学が主となり開発した脳循環調節機能と頭蓋内圧を解析可能な最新コンピューターソフトのライセンスを購入しているが、それらを使用してこれまで以上に多くの情報が得られている。 加えて、国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士を対象に脳循環や頭蓋内圧の変化を明らかにする実験においては、飛行前後のみの測定は、予定していた全11例を昨年順調に完了できた。そして当初の予定通り、地上実験で得た個々の因子の循環影響と、複数因子の循環影響である宇宙飛行士の実験結果の比較検討を開始した。さらに平成30年度に、宇宙飛行中に脳循環のデータを測定する実験も開始し、更なるデータ取得を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまで遠心重力負荷研究において、全般的脳血流と局所脳組織酸素飽和度の変化の違いを捉えたので、今後より詳細に分析し海外の学会や雑誌において発表する予定である。また、同実験から、重力負荷中の過換気により二酸化炭素濃度が低下した際に局所脳組織酸素飽和度が興味深い変化を示す可能性を捉えた。これを検討する実験も行う予定である。また、昨年度から頭部臓器の測定において内頸動脈系だけでなく外頸動脈系の測定を加えて比較する計画を開始した。これに角度を増したヘッドダウンティルト実験を組み合わせ、負荷レベルと脳循環の量影響関係を明らかにする研究を実施する。昨年度は、座位において頭部を前後屈させた際の前庭刺激等が血圧変動や脳循環に及ぼす影響を検討したので、その結果をまとめ積極的に海外などの国際的な発表の場で発信したい。 また、睡眠導入剤実験の結果からヒントを得て、一晩の絶飲食による脱水が循環調節に及ぼす影響の研究を昨年度開始し、予定被験者15名中9名のデータ測定を終えた。今年度、残り6名を完了させ結果をまとめる。 国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士の頭蓋内圧・脳循環を飛行前後で評価する実験において予定した全11例のデータ測定を完了した。現在結果を解析し頭蓋内圧や脳血流速度の変化が捉えられているので、その変化を起こした原因検索のため、関連する検査データとの比較検討を行う。またマサチューセッツ工科大学とテキサス大学の海外の研究協力者との連携を深め分析精度の向上を目指す。さらに昨年度、宇宙飛行中に飛行士自身に脳循環のデータ測定をしてもらう実験を開始したので、今年度はより積極的にヒューストンNASA、筑波JAXAに出張しデータ測定を加速したい。これら宇宙実験の結果と、地上研究で得られている結果との比較において、多様な観点から検討して、宇宙環境因子の統合的な循環影響についてまとめる予定である。
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備考 |
岩﨑賢一、宇宙滞在のヒト循環系への影響(特集 宇宙の極限環境から生命体の可塑性をさぐる)、生体の科学69巻123-126、2018 倉住拓弥、日本宇宙航空環境医学会・研究奨励賞2018年11月、Dynamic Cerebral Autoregulation During the Combination of Mild Hypercapnia and Cephalad Fluid Shift論文に対し
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