研究領域 | 宇宙からひも解く新たな生命制御機構の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
15H05940
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
森田 啓之 岐阜大学, 大学院医学系研究科, 教授 (80145044)
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研究分担者 |
梶 博史 近畿大学, 医学部, 教授 (90346255)
上田 陽一 産業医科大学, 医学部, 教授 (10232745)
村谷 匡史 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (50730199)
岩崎 真一 東京大学, 医学部附属病院, 准教授 (10359606)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 前庭系 / 微小重力 / 過重力 / 尾懸垂 / 筋-骨連関 / 平衡機能 / 自律神経 / 糖代謝 |
研究実績の概要 |
1.前庭系可塑的変化の中枢経路:耳石感覚細胞と前庭神経核を用いて,RNAseq,ChIPseq,qPCRを行った。顕著に変化した遺伝子群には,内耳の機能障害に関与するPou3f4,幹細胞維持に関与するNotch,Wntシグナリングに関与する遺伝子が12個含まれていた。微小重力環境では,1 g環境で見られた球形嚢と卵形嚢の遺伝子発現差が減少した。また,過重力環境では前庭神経核のGABA受容体発現が減少し,グルタミン酸受容体発現が増加したが,微小重力環境ではGABA受容体,グルタミン酸受容体とも発現が減少した。 2.過重力負荷時の摂餌量低下の中枢機構:過重力負荷時の視床下部摂食関連ペプチド発現の経時変化をin situハイブリダイゼーション法を用いて検討した結果,前庭を経由したCRHとPOMC発現が摂食活動を抑制する可能性が示された。 3.重力変化が筋・骨連関および代謝調節に及ぼす影響:脱荷重マウスにおいて,筋・骨量の変動に関連する因子を探索し,アイリシンを見出した。一方,前庭破壊マウスを用いて,前庭系の糖・エネルギー代謝異常に及ぼす影響を検討した。前庭破壊は,高脂肪高ショ糖食による体重増加,全身脂肪量増加,血糖値上昇,耐糖能異常を有意に改善し,肥満により誘導される内PAI-1,TNF-α,MCP-1発現増加を抑制した。 4.経皮的ノイズ前庭電気刺激 (ノイズGVS) によるバランス障害改善効果の検討:両側前庭障害患者において,ノイズGVSによるバランス障害改善について検討する臨床試験を行った。30分間のノイズGVSを行い,刺激後6時間にわたり継時的に体平衡機能機能の評価を行った。刺激終了後3時間にわたって総軌跡長が有意に改善したが,外周面積,RMS値については,有意な改善はみられなかった。このことは,ノイズGVSのバランス改善効果は,重心動揺の周波数に影響することを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
29年度計画にあげた3つの動物実験,①過重力および微小重力環境で発現が変化した遺伝子群についての解析,②重力変化時の視床下部関連ペプチド遺伝子発現,③過重力が筋・骨連関に及ぼす影響。被験者実験であるノイズGVSの両側前庭機能障害患者への適応に関しては,予定通り実験終了し,論文執筆完了あるいは執筆中である。また,宇宙飛行士を被験者とする実験では,6名の宇宙飛行士に対するインフォームドコンセントが完了し,今後2年間でデータを取得できることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の課題として,①重力変化に応答して球形嚢,卵形嚢で発現が変化する遺伝子の役割を調べるため,KOマウスを作製し,耳石の構造および前庭系の機能解析を試みる。②前庭系が肥満による糖・エネルギー代謝異常に及ぼす影響について,その機序を前庭系に繋がる運動系・自律神経系の面から検討する。③過重力負荷,非荷重等のマウスモデルを用いて,メカニカルストレスに応答する筋・骨連関因子を遺伝子変化の視点から探索,代謝変化との関連を検討する。また,マウスモデルで,過重力負荷,非荷重,前庭破壊により筋で発現が変化する因子を新たに抽出し,筋・骨連関における役割を明らかにする。④両側前庭障害患者におけるノイズGVSのバランス改善効果について,プラセボ対照試験を行う。⑤宇宙飛行士を被験者として,宇宙飛行前後での前庭機能変化および帰還後の平衡機能障害に対するノイズGVSの効果を検討する。
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