研究領域 | 宇宙からひも解く新たな生命制御機構の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
15H05944
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研究機関 | 国立研究開発法人放射線医学総合研究所 |
研究代表者 |
根井 充 国立研究開発法人放射線医学総合研究所, 放射線防護研究センター, プログラムリーダー (10164659)
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研究分担者 |
永松 愛子 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 有人宇宙ミッション本部, 主任開発員 (00421868)
王 冰 国立研究開発法人放射線医学総合研究所, 放射線防護研究センター, チームリーダー (10300914)
勝部 孝則 国立研究開発法人放射線医学総合研究所, 放射線防護研究センター, 主任研究員 (10311375)
藤森 亮 国立研究開発法人放射線医学総合研究所, 放射線防護研究センター, チームリーダー (50314183)
丸山 耕一 国立研究開発法人放射線医学総合研究所, 福島復興支援本部, 主任研究員 (70349033)
中島 徹夫 国立研究開発法人放射線医学総合研究所, 放射線防護研究センター, チームリーダー (80237271)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 宇宙放射線 / 鉄イオン線 / 小核試験 / 染色体異常 / 放射線防護物質 / ゲノム不安定性 / マウス / メダカ |
研究実績の概要 |
宇宙放射線被ばくは長期宇宙滞在において危惧されるリスク要因であり、特に生体障害作用の大きな粒子線成分に対する動物の生体応答を明らかにすることは重要である。本研究は、発がんと密接に関わるゲノム損傷に注目し、低線量X 線もしくはγ線に対する生体応答と比較することによって、相対的に低フルエンス粒子放射線のリスクを明らかにする。マウスモデルとしては、ゲノム不安定性の誘導を可視化できる新規マウスモデルRaDR等を用い、鉄イオン線によるマウス骨髄における小核形成と脾臓における染色体変異を評価するとともに、種々の臓器における非標的効果を評価する。そして睡眠調節剤や摂取カロリー制御による感受性修飾を評価するとともに、防護効果が期待される化合物の効果を評価する。また、メダカを用いて低フルエンス粒子線による抵抗性の誘導および水温等飼育環境の効果を評価する。 今年度は、野生型マウスの鉄イオン線およびX線照射を行い、小核形成と染色体異常の解析を開始するとともに、RaDRマウスを用いて、γ線発がんの過程で体細胞ゲノムの不安定化がともなわれることを示唆した。また、ニンニク油硫黄含有主成分のジアリルジスルフィド(DADS)の放射線防護剤としての機能を示唆した。 メダカを用いた実験については、X線による放射線適応応答の検証を行い、低線量で前照射することにより放射線抵抗性が誘導されることが確認された。また中性子線照射実験については照射用中性子線源が国内に在庫が無く、またメーカーが施設移転のため製造を一時停止していることが判明したため、実験の開始を11ヶ月先延ばしすることとした。多様な粒子種を含む宇宙放射線により脊椎動物一般に対するリスクを評価することを目的とした本計画研究において、メダカを用いた中性子線照射実験は欠かすことができない重要実験項目である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスを鉄イオン線(0.1~3Gy)あるいはX線(0.1~5Gy)で全身照射した後、1ヶ月目及び2ヶ月目に末梢血、骨髄細胞(赤血球)、脾細胞を採取し、末梢血像、骨髄細胞の小核、脾細胞の染色体異常の解析を開始した。X線の照射実験では末梢血像の解析は既に終了した。3Gy以上のX線全身照射により、照射後1ヶ月目に白血球と赤血球で有意な減少が観察された。1Gy以上の照射により、ヘモグロビンで有意な減少は認められた。血小板は0.5Gyでも有意に減少することが分かった。3Gy以上の照射により照射後2ヶ月目まで赤血球とヘモグロビンの持続的低下が観察された一方、全ての照射群に白血球数の増加が認められた。 放射線防護剤の探索として、培養細胞を用いた実験から、ニンニク油の硫黄含有主成分のジアリルジスルフィド(DADS)が4GyのX線照射後の小核形成を指標としたDNA損傷細胞を減少させることを示した。一方、マウス個体を用いた実験から、DADS経口投与によりX線照射3週後の脾臓の肥大が顕著に抑制されることを明らかにした。また肝臓代謝物の中にはX線照射1ヵ月後においては被ばく線量に応じて有意に変動するものがあった。 がんの悪性化機構に関連の深いゲノム不安定性を、哺乳動物の生体組織で評価できるRaDRマウスを用い、γ線の分割照射(1.8Gy x 4)から180日以内に、約50%のマウスにリンパ腫を誘発できること、および腫瘍組織と被ばくした他の正常組織の一部で非標的性のゲノムDNA組換えの有意な増加を誘発されることを観察した。以上の結果から、致死線量に至らないレベルのγ線被ばくが、長い潜伏期間を経て選択的な組織(リンパ系)のがんを誘導し、その過程で体細胞ゲノムの不安定化がともなわれることを示唆した。 近交系メダカHdrRを用いた実験においては、X線0.25Gyの前照射による適応応答の発現を観察した。
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今後の研究の推進方策 |
鉄イオン線照射後の骨髄細胞赤血球の小核および脾細胞における染色体異常を解析することにより、C57BL/6JJmsマウスの造血系および脾臓における遺伝毒性を指標とした鉄イオン線のリスクを評価する。C57BL/6JJmsマウスは放射線誘発胸腺リンパ腫を効率に誘発する系統であることから、放射線の遺伝毒性と放射線発がんの相関性についても評価する。平成29年度以降においては、上記の実験系において、一定期間食餌制限等の処理を行い、食餌制御による鉄イオン線生体影響への修飾作用を評価し、鉄イオン線被ばくによる遺伝毒性の低減化を試みる。また、p53+/-マウスを用いる身体拘束心理的ストレス誘導実験系で、心理的ストレスによる放射線感受性への影響について検討する。 また、鉄イオン線の生体作用に対するDADSの効果を解析しX線との比較により放射線防護作用を評価する。一方、DADS以外の天然由来放射線防護物質としてDAS等の効果も調べることで重粒子線防護に有効な防護物質を探索するとともに、放射線発がんの重要な標的である幹細胞での解析を行う。更に代謝物等の評価により放射線影響マーカーの同定を試みる。 RaDRマウスについては、高LET放射線の効果を解析することにより、銀河宇宙放射線に多く含まれる粒子線による低線量率長期被ばくの影響を評価する。
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