研究領域 | 共鳴誘導で革新するバイオイメージング |
研究課題/領域番号 |
15H05948
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
宮脇 敦史 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, チームリーダー (80251445)
|
研究分担者 |
牧 昌次郎 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (20266349)
小松 直貴 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (30737440)
下薗 哲 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (40391982)
阪上 朝子 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (90462689)
|
研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
|
キーワード | バイオイメージング / 共鳴エネルギ移動 / 細胞周期 / レチノイン酸 / 固定イメージング |
研究実績の概要 |
生体組織深部は、その屈折率の不均一性のために、励起光が一点に収束せず、球面収差を生じる。つまり生体深部に存在する蛍光像を解像度良く捉えることが困難になる。球面収差の補正用に対物レンズには補正環が取り付けてられているものがあるが、この補正環を手動で回転させる必要がある。この補正は、深さに応じて行う必要があり、大規模な三次元像を得る際に大きなボトルネックとなっている。更に補正環による球面収差の補正は、焦点の移動を引き起こすため、最適な蛍光像の取得は、経験が頼りの煩雑な操作であった。今回、補正環の自動回転機構(Zlin-C)、および球面収差と焦点を最適に補正するアルゴリズム(Peak-C)を開発することにより、生体深部から解像度の高い三次元像を取得する自動球面収差補正系(Deep-C)を開発することに成功した。Deep-Cを用いて、麻酔下のマウス(神経細胞にYFPを発現する系統)の体性感覚野の神経細胞の観察を行うと、V/VI層の錐体細胞の微小構造スパインも明瞭に観察された。無調整の補正環の条件下では、その画質は大幅に低減したことから、Deep-Cの有用性が示された。最後に、マウス脳におけるDeep-Cの動作を、屈折率を指標に定量的に評価した。Deep-C補正データ(焦点の深さと補正環回転角)から屈折率を算出することが可能である。組織透明化試薬、ScaleA2により一様にした屈折率(1.38)とDeep-C補正係数により得られた屈折率(1.384-1.380)は完全に一致した。この結果は、Deep-Cによる補正が期待通りに機能していることを定量的に示している。今回開発したDeep-Cは対物レンズの補正環の自動調整機構であるため、顕微鏡システムへの組み込みが比較的容易であり、生体深部イメージングの標準的技術になることが期待される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
<RETプローブ>(1) FRET型カルシウムプローブYC2.60を小脳プルキンエ細胞に発現するtransgenic mouse lineを用いて、小脳皮質(プルキンエ細胞)の発火の時空間パターンを大規模(4 x 8 mm @30 Hz)に計測することに成功した。(2)高輝度BRET(発光)型カルシウムプローブの開発に成功した。本プローブは励起光を必要としないため、光感受性の生命現象の基礎となるカルシウム動態解明のための基盤技術である。 <細胞の個性>新規蛍光タンパク質Azalea (赤)およびh2-3(緑)を用いた改良型細胞周期プローブFucciの開発に成功した。 <個体イメージング> (1) 自動球面収差補正系(Deep-C)等、大規模イメージングに資する要素技術の開発を着実に進めている。 (2) 個体レベルの非侵襲イメージングにおいては、新規発光基質SeMpaiの開発を行った。SeMpaiは水溶性が高く、Flucと反応して近赤外発光を示し、従来のD-luciferin/Flucと比べ、深部組織においてがん細胞の高感度検出が可能であることを実証した。
|
今後の研究の推進方策 |
<RETプローブ> (1) FRET型カルシウムプローブを用いた大規模観察の小脳皮質プルキンエ細胞の発火パターンから時空間的相関を抽出する画像処理法を開発する。また、 BRET(発光)とFRET(蛍光)を組み合わせたカルシウムプローブを、マウス網膜のメラノプシン発現神経節細胞に発現させ、青色光照射によるカルシウム動態を解析する。さらにFRETを介したオプトジェネティクス技術を用いて、脳深部の神経細胞の発火を誘導する新規技術を開発する。 <細胞の個性>蛍光タンパク質Azalea (赤)およびh2-3(緑)を組み込んだ心気細胞周期プローブFucciの性能解析を行う。 <個体イメージング>(1)レチノイン酸プローブのtransgenic mouse lineを用いて、RAome技術を完成させる。マウス個体およびマウスの発生時期の各種臓器(脳下垂体、生殖腺など)におけるレチノイン酸濃度勾配を解析し、濃度勾配の発生機序および生理的意義を探る。 (2) 人工生物発光システムAkaBLIを利用したカルシウムプローブを開発する。(3) 固定脳組織透明化技術において、白質(髄鞘)を描出して3次元再構築する技術を開発する。
|