計画研究
平成27年度においては、「超解像イメージング」に対する機能性蛍光プローブの開発に注力して研究を進めた。具体的には、我々の研究グループでこれまでに開発した自発的に光明滅する超解像イメージングプローブの分子設計法をさらに拡張することで、多色・多機能な超解像イメージングプローブの開発を目指した。1.「分子内スピロ環化平衡」に基づく超解像イメージングプローブの多色化これまでに確立した分子内スピロ環化平衡に基づく分子設計法に則り、自発的に光明滅する超解像イメージングプローブの多色化を図った。具体的には、様々な分子内求核基と蛍光団(求電子基)を有する誘導体を合成しその光学特性を評価することで、適切な特性を示す誘導体の探索を行った。その結果、キサンテン系色素の10位元素と、3,6位アミノ基の置換基を最適化することで、488 nmレーザーで励起可能な誘導体1と561 nmレーザーで励起可能な誘導体2の二つの候補骨格の探索に成功した。次に、上記候補誘導体のうち、より蛍光性の高かった誘導体1を用い、超解像画像の構築が可能か検討した。つまり、誘導体1をラベル化した抗体を用いて固定細胞の微小管を免疫染色し、全反射顕微鏡での測定を行った。その結果、誘導体1はチオールや脱酸素剤などの添加物を加えない温和な条件下で自発的な光明滅を繰り返し、超解像画像を構築できることを確認した。2.「分子間求核付加反応」に基づく超解像イメージングプローブの開発当研究室において見出した蛍光団と細胞内求核分子(水、アミノ酸、グルタチオンなど)との間の「分子間求核付加反応」を新たな光明滅機構として活用することを考え、種々の置換基を有するパイロット化合物を合成した。さらに、蛍光性フォームと無蛍光性フォームの存在比率や、分子間求核付加速度定数を算出し、分子設計の指針を得た。
2: おおむね順調に進展している
分子内スピロ環化平衡や分子間求核付加反応を最適化することで新たに開発した色素は、我々の研究グループでこれまでに開発したブリンキング色素と分離可能な吸収・蛍光スペクトルを有する。また、チオールや脱酸素剤などの添加物や強い励起光照射無しに自発的にブリンキングする性質を保持しているため、生理的条件下で複数の標的蛋白質を多色かつ超解像度で観察することが可能になると期待される。これらの成果は当初目標としていた平成27年度の計画に沿った成果であったため、上記の評価とした。
1.「分子内スピロ環化平衡」に基づく超解像イメージングプローブの多色化平成27年度の検討で見出された誘導体1と誘導体2に、SNAP-tag・Hal-tagなどのタグ蛋白質の基質部位を導入した化合物を合成する。さらに、標的蛋白とタグ蛋白の融合蛋白を発現させた細胞に適用することで、細胞膜透過性、標的蛋白へのラベル化速度や特異性を評価する。同時に、超解像画像が構築可能か、またその時空間分解も評価する。また、タグ蛋白との反応前はブリンキング機能が抑えられているが、タグ蛋白との反応後に初めてブリンキング機能が回復する分子の開発も試みる。2.「分子間求核付加反応」に基づく超解像イメージングプローブの開発平成27年度に評価した化合物の更なる構造展開を行い、蛍光性フォームと無蛍光性フォームの存在比率や、光明滅速度定数などのパラメータの最適化を図る。例えば、従来までの色素では数100 ms であった蛍光性状態の平均寿命が数~数10 ms 程度となるよう、蛍光団の求電子性を制御することで、高速での超解像イメージングに適したプローブ開発を目指す。このような検討により、高速かつライブセルでの多色超解像イメージングに資する分子の開発を目指す。3.ストレスイメージングに資する蛍光プローブの開発本新学術研究領域が掲げる主課題のうち、ストレスイメージングに対するプローブの開発にも着手する。具体的には、最近我々が見出した光照射による分子間求核付加反応の非平衡化現象を活用し、酸化ストレスに関連する細胞内生体分子の濃度変動を繰り返しかつ定量的に測定可能なプローブの開発を目指し検討を開始する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (15件) (うち招待講演 1件)
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