研究領域 | 植物の成長可塑性を支える環境認識と記憶の自律分散型統御システム |
研究課題/領域番号 |
15H05956
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
木下 俊則 名古屋大学, 理学研究科(WPI), 教授 (50271101)
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研究分担者 |
多田 安臣 名古屋大学, 遺伝子実験施設, 教授 (40552740)
鈴木 孝征 中部大学, 応用生物学部, 准教授 (50535797)
中道 範人 名古屋大学, 理学研究科(WPI), 特任准教授 (90513440)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 植物 / シグナル伝達 / 気孔孔辺細胞 / 概日時計 |
研究実績の概要 |
青色光に依存した気孔開口のキーエンザイムである気孔孔辺細胞の細胞膜プロトンポンプのリン酸化を介した活性化や、気孔開度制御に関わる新たな因子の同定と機能解析を目的として、生理・生化学的解析、遺伝学的スクリーニングやケミカルスクリーニングを進めた。主な成果として、ケミカルスクリーニングにより、気孔孔辺細胞の細胞膜プロトンポンプのリン酸化を介した活性化を特異的に阻害し、葉の萎れを抑制する新規化合物SCLsを同定し、Toh et al. 2018 Plant Cell Physiologyとして発表し、新聞やNHKニュース等のメディアにも取り上げられた。さらに、これまで不明であった赤色光による気孔開口が気孔孔辺細胞の細胞膜プロトンポンプのリン酸化を介した活性化により引き起こされることを明らかにし、さらに葉肉細胞から孔辺細胞への細胞間シグナル伝達が活性化に重要であることを明らかにした(Ando and Kinoshita. 2018 Plant Physiology)。 また、気孔開口への日長条件の影響を調べ、シロイヌナズナの花成誘導を引き起こす長日条件において、短日条件よりも有意な気孔開口促進や気孔コンダクタンスの上昇が見られることを見出した。さらに、網羅的な遺伝子発現解析を行い、長日条件に応じて発現の誘導される遺伝子周辺のヒストン修飾を調べた結果、ヒストンメチル化が重要な役割を果たしていることを明らかにし、現在、投稿論文の改定を行なっている。 さらに、地上部の光合成活性が、長距離シグナル伝達を介して、根における土壌からの養分吸収にも影響を与えていることを明らかにし、その分子機構の解明を進めている。 これらの研究を通じて、植物の自律分散型環境応答統御システムの全容解明を目指していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
・気孔開度制御に関わる新奇因子の同定と機能解析:青色光に依存した気孔開口のキーエンザイムである気孔孔辺細胞の細胞膜プロトンポンプのリン酸化を介した活性化や、気孔開度制御に関わる新たな因子の同定と機能解析を目的として、生理・生化学的解析、遺伝学的スクリーニングやケミカルスクリーニングを行い、主な成果として、気孔開口や葉の萎れを抑制する新規化合物SCLsの発見や、赤色光による葉肉細胞からの細胞間シグナル伝達を介した気孔開口の新規機構を発見し、論文として発表し、メディアにも多数取り上げられた。 ・環境刺激に応答した植物の環境記憶と生理応答の解明:環境記憶と気孔開度制御との関連性について解析を進め、シロイヌナズナの花成誘導を引き起こす長日条件において、短日条件よりも有意な気孔開口促進や気孔コンダクタンスの上昇が見られることを見出した。さらに、網羅的な遺伝子発現解析を行い、長日条件に応じて発現の誘導される遺伝子周辺のヒストン修飾を調べた結果、ヒストンメチル化が重要な役割を果たしていることを明らかにした。この結果は、気孔開度制御においても環境記憶が重要な役割を果たしていることを示唆する初めての結果と考えられ、現在、投稿論文の改定をおこなっている。 ・環境刺激に応答した長距離シグナルを介した気孔開度制御:長距離シグナルを介した気孔開度制御については、乾燥ストレス時のアブシシン酸以外の環境刺激については解析が行われていない。そこで、気孔開度制御への関与が示唆されている土壌の栄養状態(窒素やリン)や乾燥・塩ストレスがどのように気孔開度へ影響を与えるのか、松林班、福田班、高橋班と連携し、長距離シグナルとの関連性について解析した。また、さらに、地上部の光合成活性が、長距離シグナル伝達を介して、根における土壌からの養分吸収にも影響を与えていることを明らかにし、その分子機構の解明を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度の研究により、気孔開度制御や花成制御における局所応答の分子機構のみならず、本領域の大きな目標である環境記憶システムや長距離シグナル伝達の関与を示す結果が得られてきた。今後は、研究支援センターの活用、さらに新たに加わる公募班を含め領域内連携研究をより積極的に進めていきたい。また、これらの研究で得られた知見に基づき、気孔開度を人為的に制御する技術を確立し、様々な環境条件下での光合成、生産量やストレス耐性等の試験を行い、農学や実用植物を利用した低炭素社会の発展に繋がる基盤を構築する。
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