研究領域 | 植物の成長可塑性を支える環境認識と記憶の自律分散型統御システム |
研究課題/領域番号 |
15H05957
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松林 嘉克 名古屋大学, 理学研究科, 教授 (00313974)
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研究分担者 |
望田 啓子 (桑田啓子) 名古屋大学, トランスフォーマティブ生命分子研究所, 特任助教 (70624352)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | ペプチドホルモン / 篩管 / 硝酸 / 環境応答 |
研究実績の概要 |
自然界では,土壌中の窒素栄養分は極めて不均一に存在する.そのため,植物はあらゆる方向に根を張りめぐらせつつ,一部の根で窒素欠乏を感知した時に,特異的なペプチドシグナルCEPを介して他の根で相補的により多くの窒素を取り込むしくみを備えている.本研究では,この全身的窒素要求シグナリング系をモデルとして,根から葉に移行したCEPが受容体に認識された後に,葉でつくられ篩管を通って再び根に移行すると想定される2 次シグナルの解明を中心に,長距離シグナル伝達を介した植物の巧みな栄養環境応答の全体像の解明に挑んでいる.昨年度までにCEPの下流で働く2 次シグナルが篩管移行性のポリペプチドCEPD1およびCEPD2であることを見出していたが,今年度は,シロイヌナズナに21種類存在するCEPDホモログ群に着目して研究を行なった.そのひとつ,CEPDL2の解析を進めたところ,CEPDL2は葉自身の窒素状況に応じて発現上昇し,根へ移行して根における硝酸取り込みを制御するシグナルであることが明らかとなった.CEPDL2を欠損する植物体は,硝酸取り込み能力が低下し,地上部が矮小化する表現型を示した.CEPDL2に加え,CEPD1およびCEPD2も欠損する3重変異体では,地上部はさらに矮小化した.植物は,根の窒素欠乏に応答するCEP-CEPD経路と葉自身の窒素状況を根に伝えるCEPDL2経路の両方によって,全身的な窒素ホメオスタシスを維持していることが明らかとなった.また,領域内共同研究として,マメ科植物ミヤコグサの根で根粒形成の長距離制御に関わるPLENTYがペプチドホルモンの糖鎖修飾酵素であることの証明に貢献した.さらに,リン酸化を介した情報伝達に関わる分子群を同定するため,15Nを用いた安定同位体標識法によるリン酸化変動プロテオミクスの系を確立した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに,全身的な窒素要求シグナリングに関わるペプチドホルモンCEPの下流で葉から根へ長距離移行するポリペプチドCEPDの同定に成功しており,長距離シグナル伝達を介した植物の巧みな栄養環境応答の解明を目指した本計画研究の中心的目標は概ね達成できたと考えている.その研究過程で,シロイヌナズナにはCEPDホモログが21種類も存在し,その多くが葉の篩部に特異的な発現を示すことが明らかになった.これらは葉から根へ情報を伝達する新しい長距離移行シグナル群である可能性が高まっており,個々の機能解析を進めていくことで,これまで知られていなかった成長制御機構や環境適応機構を明らかにできると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
全身的窒素要求シグナリングにおいて,リガンドCEPから受容体CEPRを介して2次シグナルCEPDが誘導されるまでの経路は明らかにでき,全身的窒素要求シグナリングの基本的な分子メカニズムは解明できた.今後は,葉から根に移行したCEPDがどのようにしてNRT2.1の発現を上昇させているかを,共免疫沈降などの手法を用いて解析していく.また,シロイヌナズナに21種類存在するCEPDホモログ群についても,それぞれの誘導発現株を作製し,根で一過的に発現させた場合における遺伝子発現変動を次世代シーケンサで検出する手法で機能解析を進めていく予定である.
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