計画研究
植物には脳に相当する器官はないものの、個体全体を統合する情報ネットワークが存在すると考えられているが、その実体はほとんど明らかになっていない。本研究では、CLEペプチドと時間情報を中心にシグナル伝達を解析している。本年度は、次の研究を行った。CLE1-CLE7遺伝子のプロモーターとGUS遺伝子の融合遺伝子を作成し、これらをシロイヌナズナに導入して、その発現部位を調査した。その結果、それぞれ特徴的な発現パターンを示すことが明らかとなった。また、CLE1-CLE7の発現は、窒素やバイオティックシグナルにより影響を受けることが明らかとなった。CLE2遺伝子の発現誘導系を持つシロイヌナズナを作成し、根で遺伝子誘導をした後に、根と地上部で発現する遺伝子をDNAチップで解析した。その結果、根と地上部では異なる遺伝子が発現することが明らかとなった。この結果から、CLE2遺伝子の根での発現の後、根から何らかのシグナルが地上部に伝達されることが明らかとなった。維管束を介した長距離シグナルを解析する目的で、木部運搬シグナルのモデルとして、蛍光試薬を用いた可視化系を開発した。この系を、維管束変異体、さらには私たちの研究室で開発した木部細胞壁改変変異体ラインに適用し、木部輸送における維管束の関与、蒸散の関与、また木部細胞壁の関与を解析した。その結果、特定の細胞壁成分が木部輸送に関与する可能性が示された。また、地上部と地下部の間でどのような時間情報の共有機構が存在するかを明らかにするため、様々な刺激を根に与えた時に地上部の概日リズムがどのように影響を受けるかを確認した。その結果、カリウムイオンを根に投与すると、1-2時間以内に地上部の概日リズムの位相前進が起こったことから、根からの栄養シグナルが地下部から地上部への時間情報の伝達に関わっている可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
当初目指していたCLE1-CLE7の発現解析は予定通り進行し、これまで知られていなかった部位での発現も明らかにすることができた。また、CLE2遺伝子の局所的遺伝子発現による、地上部での新たな遺伝子発現など、長距離シグナル伝達の存在が示唆された。加えて、地上部と地下部の間でどのような時間情報の共有機構にカリウムイオンが関与するなどの新たな知見が得られた。以上の点から、概ね順調に進展していると判断される。
今後、これまでの研究をさらに詳細に解析するとともに、光、栄養、感染ストレスとCLEペプチドシグナルとのクロストークについて、さらに検討を行う。長距離輸送に関しては、CLE2, CLE3の根での発現により、地上部で新たに発現した遺伝子の解析を行う。さらに、様々な維管束・細胞壁改変ラインにおける輸送動態を解析する。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 1件、 査読あり 9件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 10件、 招待講演 3件) 図書 (1件) 備考 (1件)
Plant Cell Physiol.
巻: 57 ページ: 944-952
10.1093/pcp/pcv158
Plant Cell
巻: 28 ページ: 1250-1262
10.1105/tpc.16.00027
Int. J. Syst. Evol. Microbiol.
巻: 66 ページ: 3164-3169
10.1099/ijsem.0.001165
巻: 57 ページ: 1854-1864
10.1093/pcp/pcw107
Nature Com.
巻: 7 ページ: 12383
10.1038/ncomms12383
Plant Biotechnology
巻: 33 ページ: 309-314
org/10.5511/plantbiotechnology.16.0309a
J. Exp. Bot.
巻: 67 ページ: 2207-2217
10.1093/jxb/erw024
Proc. Japan Acad. Series B
巻: 92 ページ: 42-47
10.2183/pjab.92.98
Curr. Opin. Plant Biol.
巻: 33 ページ: 42-47
doi.org/10.1016/j.pbi.2016.06.003
http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/seigyo/lab.html