寄生植物による維管束情報ハイジャック機構の解明

2016 年度 実績報告書

• 研究領域: 植物の成長可塑性を支える環境認識と記憶の自律分散型統御システム
• 研究課題/領域番号: 15H05959
• 研究機関: 国立研究開発法人理化学研究所
• 研究代表者: 白須 賢 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, グループディレクター (20425630)
• 研究期間 (年度): 2015-06-29 – 2020-03-31
• キーワード: 植物 / 病害抵抗性

研究実績の概要

寄生植物は主要な穀物を含むさまざまな作物に寄生し、収穫量を大幅に減らす農業上の有害生物である。特にアフリカや地中海沿岸地域での農業への被害は深刻であるが、寄生植物がどのように宿主の生理機能や生長をコントロールしているのかを理解することは、こうした被害への対策を講じるうえで重要なステップと考えられる。寄生植物は吸器と呼ばれる侵入器官を新たに形成し、この器官を介して宿主組織に侵入、維管束を連結することで宿主との連絡を確立し、この連絡を介して水や栄養を宿主から奪う。本課題では、次世代シーケンサーを用いた網羅的な解析から、吸器発生初期に発現が変動する遺伝子を多数同定した。同定された遺伝子群の中に、オーキシン生合成の鍵酵素YUCCAをコードする「YUC3遺伝子」の解析を進めた。まず、YUC3の発現は吸器発生部位の表皮で特異的に上昇すること、そして、YUC3の発現の上昇に伴い、内生のオーキシン量が上昇することが分かった。また、YUC3の発現を減少させると、形成される吸器の数が減少すること、反対に、YUC3の発現を表皮で特異的に誘導すると、吸器様の構造を形成する様子が観察されことから、YUC3を介した吸器発生部位での局所的なオーキシンの生合成が、吸器発生において重要な過程であることが明らかになった。
また、寄生植物が生合成したサイトカイニンが宿主植物へと移動し、宿主植物がそれを受容することで宿主の肥大化（ハイパートロフィー）が引き起こされることが明らかになった。このハイパートロフィーがより効率的な寄生に貢献していることがわかった。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

ハマウツボ科の寄生植物であるコシオガマの遺伝学システムを用いて、次世代シークエンサーによる解析をすすめられたことは、研究が大きな障害なく推進していることを意味している。また植物ホルモンであるオーキシンとサイトカイニンが寄生に非常に重要で有り、サイトカイニンに関しては、寄生植物から宿主植物に移動する化合物の機能が明らかになった最初の例となった。このことから、研究は概ね順調に推移していると判断する。

今後の研究の推進方策

半寄生植物コシオガマと宿主植物のシロイヌナズナを用いて、感染に必要な組織である吸器に特異的に発現する遺伝子の解析をおこなう。具体的には、レーザーマイクロダイセクション法によって単離された特異的遺伝子群を中心に発現解析、KO解析をおこなうが、特にSBT遺伝子群の詳細な系統解析と発現解析をおこなう。また、これまでの発現解析から明らかになったオーキシンとサイトカイニンについて関連する遺伝子と細胞特異的発現パターン解析を継続する。具体的にはオーキシントランスポーターPIN1, PIN2, PIN3, PIN4, PIN9, LAX1, LAX2, LAX3, LAX5をクローンし、その発現解析を詳細に行う。またオーキシンのトランスポーター阻害剤を用いてオーキシンの役割を解析する。また、サイトカイニンの役割を解析するため、サイトカイニンを不活性化する酵素CKXを寄生植物で発現させ、その表現型を詳細に解析する。また、宿主植物のサイトカイニンのシグナル変異体および生合成変異体を用いて、宿主内でのサイトカイニンの役割を詳細に解析する。

研究成果

• [雑誌論文] Inter-species hormonal control of host root morphology by parasitic plants. (2017)
  • 著者名/発表者名: Spallek, T., Melnyk, C.W., Wakatake, T., Zhang, J., Sakamoto, Y., Kiba, T., Yoshida, S., Matsunaga, S., Sakakibara, H., *Shirasu, K.
  • 雑誌名: Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 巻: 印刷中 ページ: -
  • DOI: 10.1073/pnas.1619078114
  • 査読あり / 国際共著 / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] Haustorium induction assay of the parasitic plant Phtheirospermum japonicum. (2017)
  • 著者名/発表者名: Ishida, J.K., Yoshida, S., Shirasu, K.
  • 雑誌名: Bio-protocol 巻: 7 ページ: e2260
  • DOI: https://doi.org/10.21769/BioProtoc.2260
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] Strigolactones in plant interactions: the yin and yang. (2017)
  • 著者名/発表者名: Lopez Raex, J.A., Shirasu, K., Foo, E.
  • 雑誌名: Trends in Plant Sci. 巻: 印刷中 ページ: -
  • DOI: http://dx.doi.org/10.1016/j.tplants.2017.03.011
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著 / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] Markers to distinguish different species of anthracnose fungi identify Colletotrichum fructicola as the predominant virulent species in strawberry plants in the Chiba prefecture of Japan (2017)
  • 著者名/発表者名: Gan, P., Nakata, N., Suzuki, T., Shirasu, K.
  • 雑誌名: J. Gen. Plant Path. 巻: 83 ページ: 14-22
  • DOI: 10.1007/s10327-016-0689-0
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] A calmodulin-like protein regulates plasmodesmal closure during bacterial immune responses. (2017)
  • 著者名/発表者名: Xu, B., Cheval, C., Laohavisit, A., Chiasson, D., Hocking, B., Olsson, T., Shirasu, K., Faulkner, C., Gilliham, M.
  • 雑誌名: New Phytologist 巻: 印刷中 ページ: -
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著 / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] Draft genome assembly of Colletotrichum chlorophyti, a pathogen of herbaceous plants (2017)
  • 著者名/発表者名: Gan, P., Narusaka, M., Tsushima, A., Narusaka, Y., Takano, Y. and Shirasu, K.
  • 雑誌名: Genome Announcement 巻: 5 ページ: e01733-16
  • DOI: 10.1128/genomeA.01733-16
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] Local auxin biosynthesis mediated by a YUCCA flavin monooxygenase regulates the haustorium development in the parasitic plant Phtheirospermum japonicum. (2016)
  • 著者名/発表者名: Ishida, J. K., Wakatake, T., Yoshida, S., Takebayashi, Y., Kasahara, H., Wafula, E., dePamphilis, C. W., Shigetou N., Shirasu, K.
  • 雑誌名: Plant Cell 巻: 28 ページ: 1795-1814
  • DOI: http://dx.doi.org/10.1105/tpc.16.00310
  • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著 / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] The haustorium, a specialized invasive organ in parasitic plants. (2016)
  • 著者名/発表者名: Yoshida, S., Cui, S., Ichihashi, Y., Shirasu, K.
  • 雑誌名: Annu Rev Plant Biol. 巻: 67 ページ: 643-667
  • DOI: 10.1146/annurev-arplant-043015-111702
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] Haustorial hairs are specialized root hairs that support parasitism in the facultative parasitic plant, Phtheirospermum japonicum (2016)
  • 著者名/発表者名: Cui, S., Wakatake, T., Hashimoto, K., Saucet, S.B., Toyooka, K., Yoshida, S. and Shirasu, K.
  • 雑誌名: Plant Physiol. 巻: 170 ページ: 1492-1503
  • DOI: http://dx.doi.org/10.1104/pp.15.01786
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] Molecular parasitic plant host-interactions. (2016)
  • 著者名/発表者名: Saucet, S. B. and Shirasu, K.
  • 雑誌名: PLoS Pathogens. 巻: 12 ページ: e1005978
  • DOI: https://doi.org/10.1371/journal.ppat.1005978
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [雑誌論文] The Arabidopsis CERK1-associated kinase PBL27 connects chitin perception to MAPK activation. (2016)
  • 著者名/発表者名: Yamada, K., Yamaguchi, K., Shirakawa, T., Nakagami, H., Mine, A., Ishikawa, K., Fujiwara, M., Narusaka, M., Narusaka, Y., Ichimura, K., Kobayashi, Y., Matsui, H., Nomura, Y., Nomoto, M., Tada, Y., Fukao, Y., Fukamizo, T., Tsuda, K., Shirasu, K., Shibuya, N. and Kawasaki, T.
  • 雑誌名: EMBO J. 巻: - ページ: e201694248
  • DOI: 10.15252/embj.201694248
  • 査読あり / オープンアクセス / 謝辞記載あり
• [学会発表] Identification of a quinone receptor in Arabidopsis (2017)
  • 著者名/発表者名: Anuphon Laohavisit
  • 学会等名: 第58回日本植物生理学会年会
  • 発表場所: 鹿児島大学、鹿児島市、鹿児島県
  • 年月日: 2017-03-17 – 2017-03-17
  • 国際学会
• [学会発表] Molecular Identification of a Quinone Receptor in Plants (2016)
  • 著者名/発表者名: Anuphon Laohavisit
  • 学会等名: Cold Spring Harbor Asia
  • 発表場所: 淡路夢舞台国際会議場、淡路市、兵庫県
  • 年月日: 2016-11-29 – 2016-11-29
  • 国際学会
• [学会発表] Vascular hijack by parasitic plants (2016)
  • 著者名/発表者名: 白須 賢
  • 学会等名: 2016 IPGSA Meeting
  • 発表場所: The University of Toronto, Toronto, Canada
  • 年月日: 2016-06-23 – 2016-06-23
  • 国際学会 / 招待講演
• [備考] 研究室HP (日本語)
  • URL: http://plantimmunity.riken.jp/index_ja.html
• [備考] 研究室HP (Englsih)
  • URL: http://plantimmunity.riken.jp/index.html