計画研究
寄生植物は穀物を含むさまざまな作物に寄生し、収穫量を大幅に減らす。特にアフリカや地中海沿岸での農業への被害は深刻であるが、寄生植物がどのように寄生するのかを理解することは、こうした被害への対策を講じるうえで重要なステップと考えられる。寄生植物は吸器と呼ばれる侵入器官を形成し、この器官を介して宿主組織に侵入、維管束を連結することで宿主との連絡を確立し、この連絡を介して水や栄養を宿主から奪う。これまでの研究で、宿主のリグニンが、寄生に非常に重要であることがわかってきた。このことから、寄生植物ストライガの宿主であるイネの感染時におけるリグニンのメタボローム解析を行った。ストライガ耐性品種では、ストライガ2感染すると多くのリグニン代謝物が特異的に蓄積することを見出した。最も明らかなのは、相互作用部位周辺での、リグニン、主にp-ヒドロキシフェニル(H)、グアイアシル(G)、およびシリンギル(S)芳香族単位からなるフェニルプロパノイドポリマーの沈着の増加であった。また、リグニン蓄積は、フェニルプロパノイド経路における酵素をコードする遺伝子の発現の誘導を伴った。さらに、リグニン組成を調節する遺伝子をノックダウンまたは過剰発現させることによって正常なリグニン組成を改変するとストライガ感染に対する感受性を増強した。これらの結果は、感染部位に沈着したリグニンの増強およびリグニンポリマーの構造的完全性の維持が、ストライガ耐性にとって極めて重要であることを証明している。
2: おおむね順調に進展している
ゲノム・トランスクリプトーム情報が確立した寄生植物コシオガマの実験系を用い、多くの遺伝子をクローニングできている。吸器形成時に発現が上昇すると確認されたSBT遺伝子群に関しては系統解析をおこない、プロモーターをクローンできた。これらのプロモーターとYFP等の発現マーカーを使って、時空間的発現パターンを明らかにできた。特にオーキシントランスポーターであるPINとLAXタンパク質と4つのSBT遺伝子については、コシオガマの感染器官である吸器に特異的に発現していることを突き止めた。また、本研究で構築したコシオガマの吸器で発現する遺伝子群の酵母1ハイブリッド法ライブラリーをもちいて、プロモーターに結合因子の同定が進んでいる。さらに、宿主由来の吸器形成誘導物質が細胞壁リグニン由来のキノンモノマーであることから、この因子の受容システムの解析が進んでいる。このことから、研究は概ね順調に推移していると判断する。
吸器の形成に必要な遺伝子の同定と機能解析に関しては、ゲノム・局所的トランスクリプトームを駆使して単離した特異的遺伝子群の機能解析を継続して進める。吸器形成時に発現が上昇すると確認されたSBT遺伝子群に関しては、さらに解析を続け、そのプロモーターにSBT阻害タンパク質をコードする遺伝子を発現させるなどして、表現型解析をおこないその機能を明らかにする。吸器を介したシグナル伝達機構の解明に関しては、どのようにしてペプチド、植物ホルモン等の移動が寄生植物から宿主へ、あるいは宿主から寄生植物へ行われるかを探索するため、そのベクター候補となるエクソゾームをマーカー使って可視化し、その挙動を詳細に解析する。移動が明らかになった場合はそのエクソゾームを単離する実験系を構築する。オーキシン移動の極性に関しては、吸器での発現を確認したオーキシントランスポーターであるPINとLAXタンパク質の細胞内局在を明らかにすることで、オーキシンの役割を解析する。吸器を介した遺伝的情報の移動と記憶機構の解明に関しては、RNA-seq解析を細胞特異的におこない、上記のエクソゾーム含有RNAとの比較をおこなう。
すべて 2019 2018 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 5件、 査読あり 9件、 オープンアクセス 6件) 学会発表 (2件) 備考 (1件)
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