計画研究
本研究では乾燥や温度ストレスに対する植物の局所的応答の分子機構を解明するとともに、ストレスの長距離シグナル伝達因子が維管束を介して植物全体に情報を伝達する機構を解明したり、ストレスに対する植物の長期的な記憶の機構を明らかにしたりすることで、植物の持つ自立分散型環境応答統御システムの全体像を理解することを目的としている。本年度は温度ストレスに対する植物の局所的応答の分子機構の解明を目指し、高温ストレス応答に必須の因子である転写因子HsfA1の活性化の機構を詳細に解析し、高温ストレス誘導性遺伝子発現には複雑な制御ネットワークが関与していることを示した。一方、高温ストレスが組織間で伝達されるか調べるため、地上部と地下部を異なる温度で処理する実験を行い、高温ストレスの情報が伝達されている可能性を示した。また、組織間の高温シグナル伝達に関わる可能性のある因子としてペプチドに着目し、in silico解析及び質量分析計による解析から候補となるペプチドを選抜した。乾燥ストレス時の植物の成長制御機構を明らかにするために、種々の土壌水分条件下でイネの幼苗を生育させ、生理学的特性や代謝産物、遺伝子発現を網羅的に調べた。茎頂において多くの遺伝子の発現抑制が観察され、乾燥時の成長抑制に直接的に関わっていると考えられた。高温ストレス活性型レトロトランスポゾンONSENの転写制御因子を同定するために、ONSENのプロモーターにGFPを繋いだコンストラクトをシロイヌナズナに導入し、形質転換植物を作成した。形質転換植物における高温ストレス応答を確認したのち、変異原(EMS)処理を行い、変異集団を作成した。変異集団の中からGFPシグナルを指標に導入遺伝子が高発現する変異体を単離した。単離した変異体では、内在性のONSENも高く発現していることが明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
転写因子HsfA1のドメイン解析と相互作用因子解析から、Temperature-dependent repression (TDR) domainと名付けた領域が、HSP70との相互作用を介してHsfA1の活性を負に制御することを見出した。この領域を欠失した活性型HsfA1の過剰発現体は極めて高い高温ストレス耐性を示した。現在はこの領域の機能を明らかにするため、質量分析系を用いてリン酸化等の修飾部位を解析している。地上部を37度で高温ストレス処理しつつ地下部を22度に保った場合、地上部だけでなく地下部においても高温ストレス誘導性遺伝子の発現上昇が見られた。また、組織間の高温シグナル伝達に関わる可能性のある因子としてペプチドに着目し、in silico解析及び質量分析計による解析から候補となるペプチドを選抜し、これらのペプチドをコードする遺伝子について過剰発現体の作出を行っている。乾燥ストレス時の植物の成長制御機構に関する研究において、光合成活性は影響されないようなマイルドな乾燥ストレス下においても、既に葉が展開しない等の顕著な生育の遅れが生じることが示された。また、葉の生育の遅れに伴い茎頂及びその周辺を含む基部において、多数の細胞分裂関連遺伝子の発現量の減少が認められた。茎頂におけるこれらの遺伝子の発現抑制が乾燥時の成長抑制に直接的に関わっていると考えられた。これらの遺伝子の発現抑制機構に関して組換え植物を用いて解析している。GFPを指標とした変異体の同定はスクリーニングを行い、次世代シーケンサーを用いたマッピングを行うことで,現在単離した変異体の原因遺伝子の同定に取り組んでいる。また、単離した変異体では高温ストレスによる内在性のONSENの発現が上昇することから、転移の可能性も視野にいれ、世代を超えたONSENの転移の解析を行う準備をしている。
高温応答で中心的に働く転写因子HsfA1に関して、その活性の抑制因子HSP70の機能解析やその活性化に関わる相互作用因子を探索することで、活性化の分子機構の解明を図る。長距離ストレスシグナル伝達に関わるペプチドの探索では、得られた形質転換体を解析することで高温ストレス応答と関わるペプチドを選抜する。乾燥時のイネの成長抑制機構の解析では、茎頂における細胞分裂関連遺伝子の発現制御と長距離シグナル伝達との関連性を探索する。また、高温ストレス活性型のトランスポゾンを指標に、ストレス応答性遺伝子の制御因子を同定し、さらに世代を超えたストレスメモリーの有無について詳しく解析する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 5件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
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