研究領域 | 植物の成長可塑性を支える環境認識と記憶の自律分散型統御システム |
研究課題/領域番号 |
15H05960
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
篠崎 和子 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (30221295)
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研究分担者 |
伊藤 秀臣 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (70582295)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | シロイヌナズナ / 乾燥ストレス応答 / 高温ストレス応答 / 低温ストレス応答 / 転写因子 / タンパク質キナーゼ / 翻訳後調節 / トランスポゾン |
研究実績の概要 |
2018年度は以下の3つの研究を進めた。 1)乾燥・高温ストレス応答を制御する転写因子DREB2Aの活性化機構の解明:植物の乾燥及び高温ストレスによる遺伝子発現を活性化する転写因子DREB2Aは、通常条件下では植物細胞内で速やかに分解され活性を示さない。DREB2Aから中央部の短いアミノ酸配列(NRD)を除くと安定な活性型に変換され、植物に導入するとストレス耐性が向上する。このNRD内部のSer/Thr残基がリン酸化されるとDREB2Aはプロテアソーム系によって分解されることを明らかにした。さらに、このリン酸化はカゼインキナーゼ1によることや高温ストレスに応答して減少することを示した。ストレス時のNRDのリン酸化の阻害がDREB2Aを安定な活性型に変換すると考えられた。 2)シロイヌナズナの低温誘導性遺伝子発現制御機構の解明:低温に晒された植物は、低温誘導性遺伝子発現を制御する転写因子遺伝子であるDREB1の発現を強く誘導することで、耐性獲得に働く遺伝子群を制御する。季節変化などに起こる緩やかな温度低下と異常気象や夜間に起こる急激な温度低下に対して、植物は二つの異なるシグナル伝達機構を働かせ耐性機構を制御している。DREB1AとDREB1C遺伝子は概日時計の中心振動体を形成するCCA1とLHYによって制御されていることを示したが、さらに新規の複数の転写因子によっても発現制御されていることを明らかにした。 3)高温ストレス活性型レトロトランスポゾンONSENの転写制御因子の同定:高温ストレス活性型のレトロトランスポゾンのストレス応答機構を解明するために、転移誘導系を解析する過程で、高温ストレス処理を行ったカルスから再分化した個体の子孫で、高温ストレス応答に変化があることを見いだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)乾燥・高温ストレス応答を制御する転写因子DREB2Aの活性化機構の解明: DREB2AからNRDを除くと安定な活性型に変換されるが、その機構が不明であった。このNRD内部のSer/Thr残基がリン酸化されるとDREB2Aはプロテアソーム系によって分解されることが示されたことから、NRD の機能が解明される画期的成果が得られ論文として発表することができた。 2)シロイヌナズナの低温誘導性遺伝子発現制御機構の解明:低温に晒された植物は、低温誘導性遺伝子発現を制御する転写因子遺伝子であるDREB1の発現を強く誘導することで、耐性獲得に働く遺伝子群を制御する。DREB1AとDREB1C遺伝子の発現を制御する新規の複数の転写因子を同定することに成功し、研究は飛躍的に進んだ。 3)高温ストレス活性型レトロトランスポゾンONSENの転写制御因子の同定:高温ストレス処理を行ったカルスから再分化した個体の子孫で、高温ストレス応答に変化があることを示されたことから、エピジェネティックな修飾を解析する材料が得られるなど、今後につながる成果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
1)乾燥・高温ストレス誘導性遺伝子発現を制御する転写因子DREB2Aの活性化機構の解明: 高温ストレスに応答したDREB2Aの安定化に関わるNRDのリン酸化を制御するタンパク質キナーゼを同定する。 2)シロイヌナズナの低温誘導性遺伝子発現制御機構の解明:低温ストレスによる遺伝子発現制御機構で働く新規の転写因子の活性化機構を解明する。 3)高温ストレス活性型レトロトランスポゾンONSENの転写制御因子の同定:高温ストレス処理した植物の子孫を用いて網羅的遺伝子発現解析を行うとともにエピジェネティックな修飾の変化を解析する。
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