計画研究
「CGメチル化パタン形成様式の解析」遺伝子のコード領域においてCGサイトがメチル化されていることの生物学的役割と、その制御機構を探索している。このようなgene bodyメチル化は、動物と植物の両方で観察されるが、その理解は進んでいない。CGサイトのメチル化は、発現する遺伝子の内部に見られる。このようなDNAメチル化パタンが生じる機構を知るため、CGメチル化酵素遺伝子の変異体met1とMET1の補助因子をコードするVIM1/VIM2/VIM3三重変異体を交配した後代個体でのDNAメチル化を調べた。F0であるmet1やvim三重変異体(vim123)では、トランスポゾン(TE)と遺伝子の両方で、CGのメチル化がほぼ消失した。そのF1では、両親と比べてde novoのメチル化が観察されたが、一般にそのレベルは野生型個体よりもずっと低かった。哺乳類の生活環では、配偶子形成や初期発生の過程における脱メチル化と de novoのメチル化によってDNAメチル化パタンが再プログラムされる。植物はde novoメチル化酵素を持つが、いったん下がったメチル化、特にCGサイトのメチル化は即座に回復しないと報告されており(参考文献)、上記の結果はこれと一致する。F1個体においてde novoのメチル化がおきた配列は主にTEで、遺伝子の de novoメチル化は少なかった。さらに、F2個体では、F1と比べてさらにTEのDNAメチル化が進んだ。DNAメチル化パタンの形成には、世代を超えて継承されるエピジェネティックな情報が重要と考えられる。また、このようなde novo のDNAメチル化は、F0の変異体における24ntのsmall RNAの存在と強い相関を持ち、small RNAによるde novo メチル化の重要性が示唆された。またF2では遺伝子のメチル化も進んだので、今後は、この実験系を用いて遺伝子メチル化パタンの形成機構にも迫りたい。(参考文献:Vongs et al 1993 Science 260, 1296-, Kakutani et al 1999 Genetics 151. 831-, Saze et al 2003 Nat Genet 34, 65-)
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画どおりに研究を進めるとともに、遺伝子内メチル化と関連の深いヒストン修飾の制御機構について予想外の新たな知見を得ている。今後新たな方向へも研究を展開できると考える。
「遺伝子内メチル化の機能」 遺伝子内メチル化は、哺乳類の維持型メチル化酵素DNMT1のオーソログであるMET1によって維持されており、この遺伝子の変異体では消失する。本研究では、昨年度に引き続き、met1変異体を用いて、環境刺激に対する「応答性」に遺伝子内メチル化がどのように影響するかを知る。また幾つかのヒストンバリアントは遺伝子内メチル化の分布と相互に影響しうるため、これらのタンパク質の変異体やノックダウン個体を用いて、「応答性」と遺伝子内メチル化とヒストンバリアントとの関係を知る。さらに、環境記憶と遺伝子内メチル化との新経路を遺伝的に理解するための変異体選抜を開始する。「遺伝子内メチル化の制御機構」 どのような機構で遺伝子内メチル化がconstitutiveに発現する遺伝子に分布するのかは謎である。これを理解するため、メチル化が低下した配列にどのように新たにメチル化が蓄積するかを知る。met1変異体でCG配列のメチル化が低下した配列は、交配で野生型に導入しても低メチル化にとどまることが知られている。これを利用しmet1変異体にMET1遺伝子を形質転換で導入した後、形質転換個体およびその子孫でのDNAメチル化の変化をゲノムワイドに調べる。さらに、遺伝子発現への影響を網羅的に解析し、de novo DNAメチル化との関連性を知る。「トランスポゾンと環境応答の関係」 環境刺激は、植物の遺伝子内メチル化のみならずトランスポゾンのDNAメチル化にも影響する(Ito et al. 2010 Nature)。環境刺激とトランスポゾンの抑制機構の関係について知るため、たんぱく質相互作用の網羅的解析、全ゲノムDNAメチル化解析を行う。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
Scientific reports
巻: 6 ページ: 1-12
10.1038/srep23181