計画研究
1)遺伝子内クロマチン修飾による遺伝子発現制御転写制御におけるプロモーターのH3K9meやDNAメチル化の重要性はよく研究されている。一方これらの目印は遺伝子内部にも分布する。遺伝子内部にH3K9me2が蓄積するシロイヌナズナの変異体ibm1では、さまざまな発生異常が誘発される。この現象を遺伝学的に理解するため、この発生異常をサプレスする変異体を順遺伝学的に選抜し、H3K9メチル化酵素遺伝子やDNAメチル化酵素遺伝子に加え、H3K4脱メチル化酵素であるLDL2を同定した。LDL2はibm1変異による遺伝子のH3K4me1低下に関与することで転写の異常と発生異常を引き起こすことが明らかとなった。さらに、H3K9メチル化酵素遺伝子の変異体では、H3K9me2の低下に伴い、H3K4me1が上昇することがわかった。これらの結果は、H3K9me2が遺伝子内部のH3K4me1の減少を介して転写を抑制していることを強く示唆する(Inagaki et al 2017 EMBO J)。さらに、ibm1変異体を用いたエピゲノム解析によって、この変異体における発生異常誘発は病害応答経路の活性化によることが明らかになった。病害応答の記憶にエピジェネティックな修飾が関わりうることを支持する結果としても興味深い。2)配列特異的抗抑制因子の解析トランスポゾンのコードする抗抑制因子VANCの局在、および、このタンパク質とその標的配列の進化を調べた結果から、高い配列特異性を持ちつつ速い進化をするのに、標的配列のタンデムリピート形成が鍵となることがわかった(Hosaka et al 2017 Nat Commun)。
1: 当初の計画以上に進展している
H3K4me1は、酵母からヒトにまで保存されたエピジェネティックな目印であるが、エンハンサーの目印として注目され、遺伝子内修飾としての重要性の理解は遅れていた。植物の遺伝学およびエピゲノミクスを用いたアプローチから、その重要性を示す結果にたどり着いたのは、当初の計画を超える進展と考える。また、配列特異的な抗抑制タンパク質VANCとその標的配列の速い進化の背景となる分子機構が明らかになった。
転写と結びつく遺伝子内修飾であるH3K4me1が、どのようにして、より安定な修飾の制御に結びつくか、遺伝学とエピゲノミクスを用いて理解したい。
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Current Opinion in Genetics & Development
巻: 49 ページ: 43~48
10.1016/j.gde.2018.02.012
EMBO J.
巻: 36 ページ: 970~980
10.15252/embj.201694983
Nature Communications
巻: 8 ページ: 2161
10.1038/s41467-017-02150-7