研究領域 | 稲作と中国文明-総合稲作文明学の新構築- |
研究課題/領域番号 |
15H05966
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研究機関 | 奈良教育大学 |
研究代表者 |
金原 正明 奈良教育大学, 教育学部, 教授 (10335466)
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研究分担者 |
丸山 真史 東海大学, 海洋学部, 講師 (00566961)
菊地 大樹 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD) (00612433)
渡部 展也 中部大学, 人文学部, 准教授 (10365497)
鈴木 三男 東北大学, 学術資源研究公開センター, 名誉教授 (80111483)
黒住 耐二 千葉県立中央博物館, その他部局等, 研究員(移行) (80250140)
小畑 弘己 熊本大学, 文学部, 教授 (80274679)
熊谷 真彦 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 高度解析センター, 研究員 (80738716)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 古環境 / 植物遺体 / 動物遺体 / 栽培植物 / 海進 / 沖積平野 / 新石器時代 / 家畜化 |
研究実績の概要 |
河姆渡文化期の田螺山遺跡(6000~6700年前)では、9万個の出土種子類の同定と計数を終え、個数の百分率において、イネ(コメ)が79.7%と多く、イチイガシ(堅果類)18.3%と主要となり、ヒシ1.6%、チャンチンモドキ・オニバス・ウリ・ヒョウタンは1.0%未満であり、この時期の農耕・採集植物が明らかになった。柱材はヒノキ科、ノグルミ、ヤナギ属が多く、土器圧痕ではイネ(コメ)が極めて多く検出された。魚類では淡水魚のカムルチー、カメ類ではクサガメが多く、動物遺体では河姆渡文化期全般でシカ類が多く、主要な動物食が明らかになってきた。跨湖橋文化期(7000~8000年前)と良渚文化期(4200~5200年前)も種子類の構成要素は同じであり、良渚遺跡群には大量のイネ(コメ)の集積が示唆され、イノシシ/ブタ類が多く、その飼育化も確認され、ヒメタニシとシジミの淡水貝類が利用され、内陸淡水の環境が示唆された。跨湖橋遺跡や田螺山遺跡は海水準下の遺跡であり、いずれも遺跡形成後上部に海成層が乗り海に沈む。田螺山地点および河姆渡遺跡間のボーリング試料の分析・解析から、跨湖橋文化期と河姆渡文化期の遺跡はそれぞれ急速に進行してきた海進が停滞して形成された沿岸小沖積平野に立地し、いずれも直後の急速な海進で海没する。海水準は約6000年前に最高の約+1.2mに達し、その後海退し広域な沖積平野が形成され崧沢-良渚文化期の都市遺跡が出現する要素が出来たとみなされた。河姆渡文化期の田螺山遺跡(6000~6700年前)では、分析から水の動きのない天水田型の水田であり、灌漑は未発達であった。イネの次世代シーケンサー解析および木材遺物の保存処理適応実験の開始ないし準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
現在最も大規模に調査が継続されている河姆渡文化期の田螺山遺跡(6000~6700年前)では、出土種子類9万個の同定と計数を終え、栽培植物と採集植物の全容が解明され、イネ(コメ)とイチイガシ(堅果類)が主要であり、農耕経済と採集経済が並立していたことが明確に示された。木材利用、シカ類を主とする動物利用、カムルチーを主とする魚類、カメ類の利用も明らかになった。良渚文化期(4200~5200年前)の良渚遺跡群では、種子類、花粉分析の調査から、大量のイネ(コメ)の集積が明らかになり、この時期のイノシシ/ブタ類には家畜化によって生じるエナメル質減形成や歯周病が観察され、飼育化も明らかになった。また良渚文化期ではヒメタニシとシジミの貝類が淡水性貝類の利用が認められ、淡水の環境も明らかになった。以前のデータ整理も加わり、各時期の動植物利用、栽培化、家畜化の段階が大きく解明された。 遺跡およびボーリングによる連続試料および地理情報システム(GIS)の解析から、約6000年より以前の跨湖橋文化期と河姆渡文化期は海進進行期にあたるが途中の海進停滞期に形成された沿岸の小沖積平野に立地し、水田は水の動きのない天水田型であることが示された。最海進期は約6000年前(+1.2m)で、良渚遺跡群の下部まで海成層が分布し内陸100㎞地点にまで海進が及んでいることも明らかになった。約6000年前以降は海退して広域な沖積平野が形成され大規模水田がつくられる環境が整ったことも示唆された。 以上のように、動植物遺体および古環境の解析が進み、栽培、採集、農耕の様相、動物利用と家畜化の様相と大方の文化期において明らかになり、水田機能も時期によって明らかになった。各文化期の遺跡の形成の大きな要因になる環境変遷も連続的に解析され、栽培化、家畜化、都市形成の解明に向かい大きく進展したといえる。
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今後の研究の推進方策 |
大規模に調査が行われている河姆渡文化期の田螺山遺跡(6000~6700年前)および良渚文化期(4200~5200年前)の良渚遺跡群の出土の動植物遺体調査、遺跡およびボーリング試料の環境解析の進展によって、動植物利用、栽培化、家畜化、農耕の様相とその変遷が大きく明らかになり、田螺山遺跡の水田跡では分析から水田の機能が解析できた。 田螺山遺跡では、動物遺体で特に魚類骨の調査が残存し進展させ、良渚遺跡群では植物遺体の調査を良渚遺跡群以外の遺跡に拡大して調査を進める。また、良渚遺跡ではダム遺構を含むボーリング調査を行う予定で、稀有なダム遺構の機能も含めて調査を行う。跨湖橋文化期(7000年前~8000年前)の貝塚遺跡である井頭山遺跡の調査が開始され、重点をおいて動植物遺体調査、環境調査を行い、生業と栽培について検討を行う。上山文化期(8000年前以前)、崧沢文化期(5200年前~6000年前)の調査も展開していき、連続性をもって検討していく。なお、樹種調査、土器圧痕調査をは各時期において展開していく。また、水田遺構は極めて稀有であるが、河姆渡文化期を挟む水田の機能の変化を解析していきたい。北部地域でもボーリングを展開し連続したデータと、地理情報システム(GIS)の解析によって、動植物遺体利用、農耕段階と文化期を位置づけていく。 他の計画研究には、年代測定や植物遺体の同位体分析、DNA分析を資料提供ないし共同研究として行う。 イネにおける次世代シーケンサー解析および中国では進展していない木材遺物の保存処理の準備を行い、実験および処理を開始し継続する。 以上を行うに際して、総括班の設けるコア期間において現地調査を行うが、現地の状況に合わせて別途調査を行、分析、解析は研究室に持ち帰り行う。
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