研究領域 | 稲作と中国文明-総合稲作文明学の新構築- |
研究課題/領域番号 |
15H05967
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
細谷 葵 お茶の水女子大学, 理学部, 学部教育研究協力員 (40455233)
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研究分担者 |
小林 正史 北陸学院大学, 人間総合学部(社会学科), 教授(移行) (50225538)
西田 泰民 新潟県立歴史博物館, 研究部, 研究員 (80172667)
庄田 慎矢 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 研究員 (50566940)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 中国新石器時代 / 食文化 / 脂質分析 / 残存デンプン粒分析 / 民族考古学 / 土器ススコゲ痕分析 / 初期稲作社会 / 広範囲経済 |
研究実績の概要 |
本研究費の2年目である平成28年度は、当初の予定通り本格的な調査・分析に着手し、ほぼ順調に進展させることができた。同時に本年度は、大きな考古学関連の国際学会が複数開催されたことを活用し、本研究プロジェクト立ち上げの意義を国際的に広く発信することができた。 考古遺物の分析については、小林(土器ススコゲパターン分析)、西田(残存デンプン粒分析)、村上(木器分析)が、平成28年9月と29年2月に中国に渡航し、遺跡現地での分析作業を進めた。また庄田(食物残滓の脂質分析)は、英国ヨーク大学への2年間の出向を終えて9月に帰国、採取済の田螺山遺跡サンプルの分析作業を終了させた。また小林・西田・村上は、9月の渡航の際に、本領域の若手研究者育成プログラムである「田螺山キャンプ」の指導陣としても貢献した。 民族調査においても本調査を開始し、平成28年5月雲南省(楊、海外研究協力者・龍春林教授と共同)、9月浙江省(楊)、29年3月浙江省(細谷)にて、伝統的な稲作や野生植物利用について、聞き取り調査および視察を実施した。結果、雲南省は旅費等が高額になりすぎ、かつ、考古学調査との連携が難しいことが判明したため、今後は浙江省に焦点をあてた調査を進めることとした。その方針にのっとり、3月の調査では良好な成果を挙げた。次年度以降も浙江省での調査を継続していく。 国際学会では、平成28年6月開催の東アジア考古学会(米ハーバード大学)、8月開催の世界考古学会議(同志社大学)で細谷が中心となって本領域の分科会を企画・実施し、本班からも小林・細谷が発表した。加えて一般へのアウトリーチ活動として、楊が所属する滋賀県立琵琶湖博物館にて本領域の研究内容に関する特別展示を行い(平成28年11月2日~12月5日)、今回は本班の活動を主に発信するということで、民族考古学関連のパネル10枚を作成、展示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の2つの柱のうち、考古学調査は予定以上に進んでおり、民族調査の方はやや出遅れたが最終的には明確な方針に基づいた調査を開始することができたので、全体としておおむね順調に進展していると判断した。研究成果発信についても、良好な成果を挙げることができた。 考古遺物の分析では、前年度にすでに、予備調査だけでなく本調査に着手できていたため、今年度の進捗状況も良好で、平成29年2月の渡航では、主たる分析対象遺跡である浙江省田螺山遺跡だけでなく、比較研究の対象となる同省良渚遺跡での分析も開始することができた。遺跡間比較研究には次年度から取り掛かる予定であったので、予想以上に早い進展状況となっている。本年度秋から新たに研究分担者となった庄田(前年度まで研究協力者)は、イギリスからの帰国、復職などの事情で今年度は中国渡航はできなかったが、前年度に採取した田螺山遺跡サンプルの分析を、予定通りに終了させた。現在、英ヨーク大学研究者と共著での、英語による成果論文の準備を進めている。 民族調査は、中国では同様の調査の先行例がなかったため基盤作りに時間を要し、平成28年5月雲南省、9月浙江省での調査はまだ試験的な段階のそれとなったが、結果として今後のための明確な方針が立ち、29年3月には、それにのっとった浙江省での調査を開始するに至った。今後はその方針に沿ってさらにデータを蓄積していける基盤ができたことで、おおむね順調な進捗状況と言える。 2つの大きな国際考古学会で実施した本領域の分科会は、どちらも会場が満席という特筆すべき成果を挙げ、非常に効果的な成果発信となった。また、滋賀県立琵琶湖博物館における特別展示も、『中日新聞』の記事になるなど、良好な反響を得ることができた。したがって、成果発信、アウトリーチ活動についても、順調な進捗状況と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は予定通り、考古学調査、民族調査とも、平成30年度まで本調査を継続し、本研究の最終年度である平成31年度に出版などの総括作業を行う計画である。併行して、さまざまな形での研究成果発信を適宜実施していく。また平成29年度から、本班研究メンバー同士の意見交換については、分析したデータの報告だけではなく、そこからどのような過去の社会・文化像を導き出せるのかという文化的解釈を、各自が年2回の班会議ごとに考え、発表して、ディスカッションするという、学際研究としての実質を備えたものとする。これにより、最終年度に向けて、本班としての研究成果の本質的な総括を目指していくとともに、機器の不調など予期せぬ事情によりデータ分析ができない時期があったとしても、担当研究者は文献資料等を使った文化解釈の方向で有用な研究を進められるという、融通性をもたせる。 考古学調査においては、寧紹盆地と太湖平原を比較しながら稲作文明の本質をさぐるという比較研究の視点を中心に据え、平成28年度まで進めてきた田螺山遺跡(寧紹盆地)資料のサンプル分析をまとめるとともに、良渚遺跡、跨湖橋遺跡などの太湖平原の遺跡での分析作業を進めていく。 民族調査については、考古学調査と呼応し、寧紹盆地と太湖平原の伝統文化を残す農村・古村等で、聞き取り調査、参与観察を進める。調査は、寧紹盆地と太湖平原において毎年各1回、合計で年2回実施することを目安とする。 また、成果発信、アウトリーチ活動についても積極的に進める。平成29年度においては、海外研究者3~4名と国内研究者数名を招聘し、考古学のさまざまな新しい手法を使って東西ユーラシア文明を比較する、というテーマでの国際研究集会の開催を予定、準備中である。英語・日本語による成果論文も、現時点で3本(英語2、日本語1)が出版準備中。
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