計画研究
平成30年9月と平成31年2月に現地調査を行い、上海市広富林遺跡と江蘇省蒋庄遺跡の人骨群について資料整理ならびに形態学・古病理学の調査を実施した。あわせて頭骨と歯エナメル質、歯石のサンプリングを行った。南京博物院と協議して博物院施設内にて骨資料を分解処理することと、エナメル質を粉末として採取することとし、9月に予備的調査において分析に支障がないことを確認したうえ、2月に分析試料を系統的に採取した。また、良渚遺跡群において人骨でカットマークの有無を悉皆的に調査した。昨年度、分析試料を採取した馬家浜遺跡について、人骨のコラーゲン抽出を試みたがきわめて残存状態が悪く、コラーゲンの炭素・窒素同位体比ならびにアミノ酸の窒素同位体比を用いた食生活の復元は困難であることが分かった。そのため、歯エナメル質の炭素・酸素同位体比に加えて、骨リン酸塩の酸素同位体比を分析することで、人骨群における移入者について検討することとした。分析の結果、良渚遺跡群で見出された雑穀を食べている食性は認められないが、移入者は多く存在した可能性が示された。また蒋庄遺跡の予備的分析からも、長距離移入者の可能性が少ないことが示され、良渚遺跡群の特殊性が明らかになった。跨湖橋ならびに田螺山におけるブタ家畜化について、比較資料として広東省古椰遺跡の資料でコラーゲンならびにアミノ酸の同位体分析を行った。田螺山遺跡出土象牙製品の酸素同位体比を分析し、他の動物種と異なることを見出した。歯石分析では蒋庄遺跡の資料から比較的良好なデンプン粒が検出された。脂質分析については良渚遺跡群のサンプルについて脂質の残存を確認し、予備的分析を行った。こららの成果について、平成30年6月に南京大学で開催された東アジア考古学会議で5本の口頭発表を行った。また平成30年10月に北京大学秦嶺副教授と良渚遺跡群の放射性炭素年代について検討した。
1: 当初の計画以上に進展している
人骨については、当初予定していた河姆渡・田螺山・良渚・広富林遺跡について分析を順調に進めることができた。さらに、馬家浜遺跡と蒋庄遺跡の人骨群について分析許可を得て、新石器時代後期の遺跡間・地域間の比較が可能になった。また象牙製品の酸素同位体比が特異的であることを見出し、新石器時代前期における長距離交易の可能性という新しい研究課題を設定した。さらに良渚遺跡群の人骨加工痕について、詳細な分析を開始しており、人骨の取り扱いにみる社会複雑化が議論できる可能性が新たに広がった。
平成31年度は、今年度から調査を開始した蒋庄遺跡を中心に人骨の悉皆的調査を実施する。これによって、新石器時代後期の良渚文化期における食生活の多様性を遺跡間で検討可能となり、新石器時代前期の田螺山・河姆渡遺跡とあわせて議論することで社会複雑化についての実証的データを提示する。同様に前期と後期の比較として、新たに人骨加工痕に比較を開始したので、その目的などを専門的知識を有する研究協力者とともに調査する。ブタ家畜化について、新石器時代初頭の城山遺跡や新たに発見された井頭山遺跡などと比較して、家畜化プロセスの始まりについて検討する。以上の成果について、論文化をすすめる。
すべて 2018 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 5件) 備考 (1件)
月刊考古学ジャーナル
巻: 714 ページ: 5-9
季刊考古学
巻: 143 ページ: 65-68
http://c14.um.u-tokyo.ac.jp/wiki/public/inasaku_a05/